| 小林 |
いま玉露のおいしい淹れ方を教わって、さっそくいただいたのですが、一煎目を口に含んだとき、お茶ってこんな味だったのかと、びっくりしました。たんに「おいしい」とか「まろやか」とは表現しがたいような、とても奥深い味わいが舌の上に広がって。 |
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| 福井 |
そうでしょう!じつはどのお客さまも、「おいしい」とおっしゃるよりもまず先に、「ええっ、何? これがお茶?」とびっくりなさるんです。そういうお顔を拝見するのがなによりの楽しみです(笑)。 |
| 小林 |
なるほど、わたしがあんなに驚いたのも福井さんにとっては想定内の反応だったんですね(笑)。 |
| 福井 |
はい、宇治茶をその味を生かしてお出しできることがわたしたちの喜びですので。
玉露というと、「高い」というイメージをお持ちかもしれませんが、上手に淹れれば十煎ぐらいはおいしく飲んでいただけます。ですから、決して高いものではありません。 |
| 小林 |
たしかに二煎目、三煎目と、少しずつ渋みが出てきたりして、味が微妙に変化します。それに、一煎目でお茶の葉っぱが濃い緑から鮮やかな緑に変わっていくのも、見ていて、とても楽しいですね。葉っぱじたいがまるでひとつの生命体のようです。 |
| 福井 |
一煎目は湯ざましで蒸らしますので、茶葉の色が劇的に変化します。ですから、一煎目は急須にふたをしないで、ぜひ視覚でも楽しんでください。40度ぐらいの温度でゆっくり蒸らすことで、まさに「玉の露」と呼ぶにふさわしい味わいが引き出されます。「飲む」というよりも、舌の上で転がして味わっていただきたいお茶ですね。 |
| 小林 |
最後にお茶を「食べる」のもびっくりしました。十煎までじっくり味わいつくしたお茶の葉に、なんとポン酢をかけていただくと、信じられないぐらいやわらかくて、おいしい和えものになるんですね。よく知っているはずのお茶なのに、驚くことばかりです。 |
| 小林 |
国内でお茶の産地といえば、静岡をはじめたくさんあります。とくに「宇治茶」という場合、定義のようなものはあるんですか。 |
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| 福井 |
「宇治茶」と申しますと、「高級茶」というイメージがあるものですから、以前はその名に値しない、低品質のお茶でも「宇治」の名を冠して売られていました。そんなことでは「宇治茶」への信頼を失ってしまうということで、京都府茶協同組合が昨年、地域団体商標を特許庁に申請しまして、京都府・奈良県・滋賀県・三重県で生産した茶葉を、京都府内業者が宇治地域に由来する方法で製茶したものを「宇治茶」と称することが認められました。これが「宇治茶」の定義ということになります。 |
| 小林 |
いま話題の「地域ブランド」ですね。京都府では「京人形」「京友禅」「京つけもの」「間人ガニ」など、さまざまな産品が登録されました。でも、「宇治茶」の場合、京都府以外で生産されたお茶も含まれていますね。 |
| 福井 |
それは宇治茶の原料の茶葉の生産地、いわゆる宇治茶製法伝承の地域が、この四つの府県にまたがっているからなんです。植物の栽培・生育にかかわることですから、必ずしも行政上の県域では区切れないんですね。ただし、仕上げ加工は「府内業者が宇治地域に由来する製法で」と限定されています。 |
| 小林 |
それは宇治茶固有の製法ですか。 |
| 福井 |
青製手もみ製法といって、江戸時代に宇治田原の永谷宗円が編み出した方法です。それまでは釜炒りしていたのですが、炒るのではなく蒸しながら手でもむことによって、味も色も香りも格段によくなりました。この製法は、その後、全国の茶産地に伝えられ、各地で改良が重ねられていますし、現在の機械製茶の原形にもなっています。 |
| 小林 |
考えてみれば、お茶は嗜好品で、とても微妙な味わいのものですから、原料の茶葉だけでなく、製茶の仕方によっても大きく左右されるでしょうね。 |
| 福井 |
そうなんです。ですから、この「宇治茶手もみ製法」の技術は、宇治市の無形文化財になっていて、いまも保存会が大事に継承しています。 |
| 小林 |
宇治地域で茶業がこれだけ発展したのはどうしてでしょうか? |
| 福井 |
ひとつは宇治川や木津川といった大きな川があって、その川霧が、茶芽の最大の敵である霜を防いでくれます。それに、温暖な気候でありながら昼夜の気温の変化が大きいという点も、茶葉の栽培に適しています。
あるいは、高級な嗜好品を大量に消費する都に近かったとか、物流の大動脈の淀川に近く、交通の要衝だった、というような地理的条件もあるでしょうね。
『源氏物語』の「宇治十帖」でも明らかなように、平安貴族たちにとって宇治地域は、そこに別荘地をもつことが一種のステータスになるようなあこがれの地でしたから、お茶にも、いつの時代も都人の洗練された味わいが要求され、より繊細な品質へと進化したのだろうと思います。 |
| 小林 |
ペットボトル茶の登場で、飲むスタイルも変化してきましたし、お茶の健康増進作用にも関心が高まっています。実際のところ、お茶の「健康効果」はどうなのでしょうか? |
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| 福井 |
それはもう、中国で5000年以上、日本でも1000年以上飲まれているのですから、文句なしの保証付きだと思いますよ(笑)。
果物は、鳥が食べ、その種子が地面に落ちることで子孫をふやす、いわば生殖生長部ですが、茶葉はそれ自身が栄養をもって成長するものですから、強い生命力をもっています。しかも、緑茶の場合、紅茶と違って、まったく発酵させず、自然に近い状態で製造しますので、安定した状態で飲んでいただけます。 |
| 小林 |
なるほど。でも、現代人はとにかく忙しくて、ゆっくり飲んでいる時間がありません。そこで、お茶の成分を濃縮したサプリメントで手っとり早く取り込もうという人もふえているようです。 |
| 福井 |
われわれとしては、そんな不自然なことはしないで、ふだんの生活のなかにお茶を取り入れてほしいですね。まず食前のお茶は食欲増進効果がありますし、食後の濃いめのお茶は消化を助けてくれます。お茶をしっかり飲んでいると、おなかの調子も整いますよ。 |
| 小林 |
福井さんは、毎日どれぐらい召し上がるんですか。 |
| 福井 |
煎茶は大きめの湯飲みで10杯ぐらい、たっぷり飲みます。玉露は、そんなにぜいたくには飲めませんが、小さめの湯飲みで一日1杯は楽しむようにしています。もちろん、舌の上で転がして、ゆっくりとね(笑)。 |
| 小林 |
先ほど教えていただいたとおりですね。たしかに玉露を淹れているあいだは、きれいな緑色に変化する葉っぱに夢中になったり、立ちのぼる湯気や香りで気分がほぐれたりして、自分自身が無になっていくというか、素になれるような気がしました。 |
| 福井 |
とくに玉露は、お酒でいえばワインではなくブランデーのようなものですから、ゆっくり味わってくださるとゆたかな心持ちになっていただけると思います。
そうしてお茶の時間を素直に楽しんでいただくほうが、ずっと健康にいいかもしれません。やれ「抗菌作用がある」とか「消臭効果がある」とか「リラックスさせる」とかいわれて、サプリメント商品も出ていますが、楽しく飲んでいただくのがいちばんだと思います。 |
| 小林 |
いま取り組んでおられる「宇治茶の郷づくり」というのは? |
| 福井 |
ひとことでいえば「宇治茶をあいだに置いて、人と地域のつながりをつくる」ということになるでしょうか。宇治茶をつくりつづけるためには、しっかりした地域が必要ですから、宇治茶を活かした地域づくりをしようということで、われわれ茶業関係団体と行政が連携して、「宇治茶の郷づくり協議会」という組織を立ち上げたんです。 |
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| 小林 |
協議会はどんな活動をなさっているんですか。 |
| 福井 |
まずは多くの方がたに宇治地域を訪れていただいて、お茶についてよく知っていただきたいと思っています。たんに飲むだけでなく、より深く味わっていただくために、一般のお客さまを対象に、お茶の淹れ方を体験していただいたり、予約制で教室を開いたりしています。また、宇治茶のインストラクター養成事業もおこないます。 |
| 小林 |
日本茶のインストラクター制度は以前からありますね。 |
| 福井 |
わたしたちは、すでにある日本茶インストラクター制度とは別に、宇治茶のおいしさを最大限引き出す淹れ方を、きちんとお客さまにお伝えできる人材を育成したいと考えています。
そのために、よく鍛練され、インストラクターにふさわしい知識と技能を身につけた人には認定証を発行して、この認定証を持つ人だけがカフェ等の飲食店で「宇治茶」と名乗るにふさわしいメニューを提供できるようにします。もちろん、その中身のお茶もしっかり吟味・審査して、お客さまには「ほんまもん」をお出しします。
また、手もみという繊細で、熟練を必要とする技術を確実に伝承するために、手もみ技術者の認定制度も設けます。宇治茶製法の技術を継承する職人の養成は、今後のために欠かせない事業ですから。 |
| 小林 |
宇治茶を商品として売って終わり…ではなくて、おいしく飲みつづけられる段階まで責任をもちたいということですね。 |
| 福井 |
そうです。そうしないと、お茶の文化そのものがゆたかにならないと思います。
お茶は、のどを潤すだけでなく、心を潤すものでして、だからこそ、器、着物、作法といった文化をも生み出しました。その意味では、日本文化のコアともいえるでしょうし、茶業にたずさわる者として、製茶しっぱなしで終わるべきではないと考えています。 |