「京都の生協」No.66 2008年8月発行 この号の目次・表紙

いつまでも森の恵みとともに暮らしつづけるために−
みんなで森を守り育てる運動を! もっと国産材の活用を!

 このごろ、大雨が降ると、すぐ浸水騒ぎになります。もちろん、これにはいろいろな原因があるのですが、ひとつは山の保水力の低下が考えられるでしょう。かつて人びとは、建築用材のほかに、たきぎや木の芽やキノコ、けものや魚など、森の恵みを受けながら暮らしていました。そうやって山に入ることが森の健やかさを保つことにもなっていたのですが、しだいに鉄やコンクリート、石油燃料に囲まれた生活に変わり、山は手入れされないまま放置されるようになりました。荒れた山を、もとの健康な森にもどし、次の世代に引き継ごうと奮闘しているのが森林所有者の協同組合、つまり森林組合です。

(対談は緑ゆたかな雲ヶ畑の「森林の茶房」にて)


 
京都府生活協同組合連合会
会長理事 小林 智子
  京都府森林組合連合会
代表理事専務 青合 幹夫さん

木質資源の提供、環境保全、防災、景観   ――多面的な機能をもつ森林
小林  きょうは少し雨の気配があって、緑もいっそうしっとりしていますね。川のせせらぎや鳥のさえずりを聴きながら、思わず深呼吸してしまいました(笑)。
青合  こんなところに身を置くと、心が洗われるようですね。街中からわずかな時間でこれほどゆたかな自然にたどり着けるのは、京都のまちのすばらしい財産だと思います。
小林  森林というと、最近は環境問題の観点から注目が集まっています。
青合  そうなんです。木材・木質資源を生み出すだけでなく、地球温暖化の原因のひとつの二酸化炭素を吸収したり空気を浄化するという役割もはたしています。
 でも、防災機能という点でも、森は大事なんですよ。木や下草など、ゆたかな植生がある森は、それらの根っこが土を押さえてくれるので、雨が降っても表土の流失を防ぐことができます。ところが、見た目には木が生えている山でも、そうした多様な植生がないと、大量の雨にもちこたえられず、土砂崩れを起こしたり、表土が河川に流れ込んで河床を押し上げ、洪水を起こしたりします。
小林  漁業協同組合のみなさんも、ゆたかな森が魚を育むというので、森を守る活動をなさっています。林業は、消費者にとって、農業ほどには身近に感じることが少ないけれども、じつは私たちの暮らしに深くかかわっているんですね。
青合  そうですね。漁業ともかかわりますし、大切な水源ですから、農業ともかかわります。また、深呼吸の話をなさっていたように、うつくしい景観やきれいな空気は心身の健康によい影響を与えてくれますし、多様な動植物をはぐくむ場所でもあります。
 日本は、森林が国土面積の3分の2を占める国ですから、その恵みもたくさん受けていると思います。

京都の森の98%は個人所有
小林  京都の森はどんな状態ですか。
青合  京都府の総面積に占める森林の割合は約74%で、全国平均の65%よりも多く、しかも、その98%は個人が所有する「民有林」なんです。
小林  京都の山のほとんどは個人、いわゆる「山持ち」の方が所有なさっているのですね。
青合  そういうことになります。全国的には国有林が約30%ですから、その点、京都の森林は他の県と少し違っています。
小林  そういう森林所有者が集まってつくられたのが森林組合ですか。
青合   森林組合は、森林所有者である組合員が協同して森林の管理をおこなうための組織です。ひとくちに森林といいましても、人の手がまったく入らない原生的な林もあれば、人がかかわるけれどもできるだけ自然のままにしておく天然林や、材木を生産するために人が植栽した人工林もあります。このうち、とくに人の手入れを必要とする人工林の管理や整備を協同でおこなうのが森林組合です。農協と同じように、森林作業に必要な物資の斡旋・販売などもしています。
小林  所有者一人あたり、どれぐらいの面積の山をもってらっしゃるのですか。
青合  所有者の約8割は5ヘクタール以下という零細な規模です。林業経営は、おじいさんが植えて、その子が育てて、孫が切り出して売る、というふうに少なくとも3代をかけないと成り立たないのですが、それもそれなりの材価がつくことが前提です。ところが、材価は、私が就職した1968(昭和43)年の時点よりも現在のほうが低いんですね。たしか初任給は2万6000円でした。いま新卒の初任給は約17万円くらいですよ。なのに材価は、逆に下がっている。材価は低くても、材木の生産費はかかりますから、とても採算は取れないわけです。
 それと京都府の場合は、もともと零細な所有形態ですから、農業と林業を兼業して、むしろ農業の合間に林業をする人が多かったんです。それでも、農業収入にある程度の余裕があった時代は、その分を林業に回せたのですが、このごろは農業もきびしいですから、山の管理まで手が回らない所有者がふえています。

 雲ヶ畑林業総合センター・森林の茶房
 金・土・日・祝日のみ営業(10時〜16時ごろ)※季節によって異なります。
 京都市北区雲ヶ畑中津川町320
 連絡先/Tel.&Fax.075-406-2215

なぜ、山の管理が行き届かなくなったのか?
小林  材木の値段が下がったのは、やはり外材との価格競争ですか。
青合  日本は総じて地形が急峻ですから、搬出コストがすごくかかるんですね。ところが、日本に合板の原木を輸出している東南アジアなどは、平地林が多くて、木を運び出す道も簡単につくれます。
 日本は、戦後の復興期に大量の建築用材が必要になって、外国産の原木丸太の輸入関税をゼロにするという政策をとりました。東南アジアなどは、いまお話ししたように、そもそも木材の生産コストが安くつく地形条件ですし、関税もかからないので、価格競争になると国産材は太刀打ちできません。それで大量の外材が安く入るようになり、国産材がだんだん使われなくなって、価格も下がってしまいました。そのため山に目が向けられなくなって、管理が行き届かなくなったんです。
小林  山の管理というのは、下草刈りとか枝打ちとか?
青合  そうですね。今とくに大切なのは間伐です。木というのは、おもしろい植物で、同じ面積に何本植えても、育つ木の体積の合計はほぼ同じなんです。つまり、本数が多すぎると、その分、一本あたりの体積は小さくなり、細い木になります。
小林  最初からまばらに植えておけば、間伐の手間が省ける…というわけにはいかないのでしょうか。
青合  そうすると、根元のほうばかり太ってしまうし、きれいな年輪ができません。一本の木そのものの太さをそろえたり、美しい年輪をつくるためには、やはり最初はある程度の密度で植えて、徐々に間伐して、まんべんなく日に当てる必要があるんです。その意味では、間伐材は、木を育てる過程で必ず出てくるものです。

植えて、育てて、切って、売る ――国産材の循環システムづくり
小林  私の家は、じつは美山の杉で建てたんです。暮らし始めたころはピシッピシッと木が鳴っていましたし、最近は飴色に変化してきました。「ああ、木って生きてるんや」と実感しますね(笑)。
青合  そうなんです。木は、切った後も水分を吐いたり吸ったりして常に動いている。ところが、それが狂いの原因になるので、あとあとクレームがつくと困りますから、そんな材を使いたがらない大工さんもいるんですね。

小林  お世話になった大工さんによると、最近はあらかじめ工場で切ってセットされた木を、現場で組み合わせるだけという工事がほとんどだそうです。 でも、「木の顔色を見て、木のクセを考えながらやる仕事は、やっぱり職人としてのハートが燃える。むずかしいけど、おもしろい」とおっしゃっていました。
青合  そうでしょうね。そういう仕事ができる大工さんを育てる必要があります。ところが、おっしゃるように、いまはコスト優先の大量生産方式ですから、国産材を使いこなせる大工さんも減っている。いろいろな意味で悪循環が起こってますね。
小林  主伐材も間伐材も、それなりの価格で売買され、きちんと活用できるような用途開発や人材育成ができれば、国内の林業も成り立つと考えていいのでしょうか。
青合  その循環システムがつくれるかどうか、それがポイントだと思います。建築用材に国産材を積極的に使ってもらうと同時に、間伐材の用途開発にも取り組み、産業として成り立つようにしないと、後継者も育ちませんから。

「利用間伐」が循環のカギをにぎっている
小林  先ほど、間伐材は木材を生産する過程で必然的にできるものだとおっしゃいましたが、用途としてはどんなものがあるでしょうか。
青合  間伐材の用途としてもっとも多いのは、集成材ですね。間伐材などを一定の厚さで切って、接着剤でくっつけたものですが、いろいろな木が集まっている分、一枚ものの無垢板と違って、それぞれのクセが消えて、狂いの少ない、しっかりしたものになります。また、合板にも多く使われています。
小林  いま穀物を燃料に回して問題になっていますが、木材からエタノールを作ることはできないのでしょうか。それができれば、木の循環にもなるし、燃料も確保できて、一石二鳥だと思うのですが。
青合  バイオエタノールの原料としてトウモロコシが大量に使われだしたこと、一方ではアフリカを中心とする食糧危機の問題が物議をかもしていますが、バイオエタノールの原料はやはり非食料系の材料でまかなうべきだと思いますね。そこで、国段階でも木質系バイオマスからエタノールを生産する技術研究がすすめられています。民間ではすでに建築廃材などで生産をおこなっている企業もあると聞いていますが、木質系資源のすべてを有効活用するという意味で、今後の研究成果や本格的な企業化が待たれています。
小林  早く実現するといいですね。それに、ここにも素敵なストーブがあり ますが、ストーブは今ちょっとしたブームになっていますね。
青合   ペレットストーブや薪ストーブは、とても人気がありますが、薪ストーブは煙が出るので市街地では使うのはむずかしいですね。ペレットストーブは大いに期待しています。
小林  間伐材を利用して新しい商品の開発はすすめられてるんですか?
青合  いま、われわれが開発しているのはエアコンの室外機のカバーです。京町家の屋根に無機質な室外機が乗っていると、せっかくの景観が台なしですよね。それで、木製の室外機カバーがつくれないだろうかという話になって、設計士の人たちと検討し、そろそろ売り出す段階にきています。いま京都市内の明倫学区の町家で実験的に30基ほど並べていますが、周囲の町並みになじむように、べんがら格子のデザインにしました。
小林  なるほど。それは京都の景観ともマッチして、すてきですね。
青合  いずれにせよ、間伐をして、それを製品として利用し、それによって山を管理する…というふうに、くるくると循環させることが大切ですから、日吉町森林組合や京丹波町森林組合などは間伐を所有者まかせにせず集団で取り組んで、製品利用までのサイクルをつくりあげています。森林組合連合会としても、綾部に独自の加工センターを設けて、土木事業の材料に提供できるようなまっすぐな丸棒をつくるなど、いろいろと取り組んでいます。

「山の労働」の担い手を育てるために
小林  もうひとつの課題は人材育成ですね。
青合  森林の循環をつくりだすためには、山を管理できる能力を維持する必要があります。そのためには「山の労働」の担い手が不可欠で、ある意味では、この人たちがいちばん大事です。大工さんがいないと家が建たないのと同じです。ところが、山の仕事は3Kとか4Kといわれるほどきびしいし、実入りもそう多くない。そんなことでどんどん減っているのが現状です。
小林  最近、都会暮らしに疲れた人たちが農業や林業にあこがれて参入しているという話をききますが。
青合  たしかに、そういう人はふえています。ただし、なかなかきびしい仕事なので脱落する人も少なくありませんが、行政も人材確保には力を入れて、一定の生活費支給を備えた研修制度などを設けています。
 また、間伐の生産性向上という観点から、高性能の林業機械の導入と、そのオペレーターの養成にも取り組んでいます。大型の林業機械は、こう配のきつい地形では使えませんが、若い人や女性でも扱いはむずかしくないので、生産性だけでなく人材確保という意味でもメリットがあります。

みんなですすめる京都の森づくり
小林  最近、モデルフォレストや森林ボランティアの話もよく聞くようになりました。市民の関心も高まっているようですね。
青合  ここ雲ヶ畑は、京都の大学生たちがつくった森林ボランティア「山仕事サークル 杉良太郎(すぎよしたろう)」がフィールドにしていた地域で、その卒業生が森林関係のNPOを立ち上げたりして、市民的関心も少しずつひろがってきました。
 一方、モデルフォレストは森の恵みを受けている市民みんなで森を守り育てようという取り組みですが、この取り組みだけで山が守れるわけではないので、意識醸成という意味が大きいんですね。その点では、まさに「運動」ですので、企業がどれだけかかわるかが大事です。というのは、企業活動はモノや自然を収奪しがちなので、そのぶん、環境を守る意識が要求されるわけです。
 幸い、社団法人・京都モデルフォレスト協会には、生協・農協・漁協といった協同組合とともに、多くの企業も参加してくださっています。トップから従業員にいたるまで企業全体で、下草刈りなどの体験活動に参加していただいて、「森を守ろう」「木製品を使おう」という意識が出てきたら、社会全体の意識も大きく変わるだろうと期待しています。
小林  京都府生協連としても、大学生協も含めていろいろな生協が参加していますので、機会あるごとに国産材をアピールしたいと考えています。
青合  国産材のアピールはぜひお願いしたいですね。それと、森林関係のシンポジウムなども宣伝していただくと、もっと多くの消費者のみなさんに参加していただけるだろうと思いますので、その節はご協力をよろしくお願いします。しかし、なんといっても、暮らしのなかに木製品を取り入れていただくことがいちばんですね。
小林  木を含めた自然環境は、失ってからその大切さに気づいたのでは遅いけれど、いまなら、まだ間に合うのではないか。だとしたら、私も森を守る活 動に参加しつつ、京都の木に囲まれた暮らしを楽しみたいと思います。
青合  私も毎週、生協の共同購入を利用しているんですよ。これからもお互いに協同組合として力を合わせていきましょう。
小林  本日はどうもありがとうございました。




◆青合幹夫さんのプロフィール◆

 1968年3月京都府立大学農学部を卒業し、同年4月京都府に採用される。
 農林水産部林務課長、技監、部長を経て2004年4月京都府を退職。
 同年5月から京都府土地改良事業団体連合会常務理事、2007年6月京都府森林組合連合会代表理事専務に就任し現在に至る。
 京都府在職中のほとんどを森林行政に携わる。

写真撮影・ 有田知行

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京都府生活協同組合連合会連合会