「京都の生協」No.95 2018年4月発行 今号の目次

食品ロスの削減は、生活の質や社会のあり方を変える
── 食べものを無駄にしない暮らしは、地球にも懐(ふところ)にもやさしい ──

 “MOTTAINAI(もったいない)“ 環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんのこの言葉は、物を大切にしてつつましく暮らす生活が、地球環境の保全にも貢献することを教えてくれました。しかし、今の日本では、世界の食糧援助の2倍もの量の食べものが捨てられています。そうしたなかで、京都府は、府内全域で食品ロスの削減に取り組むことを決め、府民会議で検討を重ねてきました。“もったいない"の国に暮らしている一人の市民として、この問題と向き合って考えてみましょう。


京都府食品ロス削減府民会議 座長
京都府立大学大学院生命環境科学研究科 教授

山川 肇(やまかわ はじめ)さん

京都府生活協同組合連合会 会長理事
(京都府立大学公共政策学部教授)

上掛 利博

  ノルウェーのペットボトルは硬い! - 廃棄物削減は3Rから2Rへ

上掛 はじめに、「食品ロス」と「食品廃棄物」の違いについて教えてください。

山川 日本では、食品廃棄物は、食品の製造から消費にいたるまでに廃棄される全体をさしますが、食品ロスは、そのなかでも食べることができる可食部分が廃棄されたものです。たとえば魚の骨や果物の皮、卵の殻などは食べられないので廃棄しますが、その内側の食べられる部分が捨てられると食品ロスとなります。フードロスとも言います。

上掛 京都府立大学では、廃棄物分野の研究をなさってこられたのですか?

山川 廃棄物の減量やリサイクルなど、おもに資源の循環に関する研究をしています。政策面からのアプローチもしますが、たとえば市民の方からごみを提供していただいて、その中に減らせるごみがどれだけ含まれているかを調べるといった、消費者のごみを減らす行動や意識についても考えてきました。

最近、取り組んでいるのは資源のリデュース(発生抑制)とリユース(再使用)に関する研究です。それぞれの頭文字をとって「2R」と呼びます。これにリサイクル(再資源化)を加えた「3R」は、以前から大切だといわれ、リサイクルは進んできました。確かにリサイクルはごみとして処理するよりも環境負荷は下がるのですが、それでもいったん原材料の工場まで運んで、そこで高温で溶かすなどして、再度、原材料として使うので、けっこうエネルギーを使います。それよりも、そもそも資源の使用量を減らしたり、製品や部品としてそのまま繰り返し使うほうが環境負荷は下がるので、リデュースとリユースを優先しようということで、2Rの推進がいわれるようになってきました。

上掛 かつて在外研究で住んでいたノルウェーでは、ペットボトルを十数回リユースしており、日本のよりも硬い素材で、底にリユース回数を示す刻みが入っていました。

山川 そういうふうに何度も使うと、省資源になりますね。さらに地域内でリユースすれば、輸送にかかる負荷も小さくなります。

上掛 しかも、ノルウェーではデポジット制を採っているので、リユースすると容器代が返金されます。子どもたちは、ペットボトルとビンは必ず集めて、スーパーに持っていき、戻ってきたお金でお菓子を買っていました(笑)。

山川 そういう政策誘導は、リユースを促すうえでとても有効です。日本では、リサイクルはだんだん進む一方、リデュースとリユースはあまり進みませんでした。しかし、政府の最新の第3次循環型社会形成推進基本計画では、重点課題として2Rが取り上げられ、国レベルでも積極的な取組みが始まっています。

  「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)と食品ロス削減

上掛 食品ロスを減らす取組みも、リデュースとリユースの2Rを推進する動きのひとつでしょうか?

山川 そうですね。2Rの対象には、容器包装から建設廃棄物までいろいろなものがあるのですが、近年、食品のリデュース、つまり食品を無駄に捨てないようにするための検討は特に注目を集めています。

上掛 そうした背景があって、京都府においても食品ロスの削減に取り組むことになったわけですね。

山川 食品ロス削減の動きは、世界的にも国内的にも年々高まっています。国連が2015年に「持続可能な開発目標」(SDGs)として設定した17の目標でも、その12番目に「責任ある生産消費形態を確保する」という目標があって、消費や小売の段階で無駄に廃棄する食品を2030年までに半減するという大胆な目標を定めています。

日本政府も、SDGsを尊重して、食品ロス削減に向けた取組みをしていますし、京都府内では京都市が先行してさまざまな取組みを展開してきました。そこで、こうした取組みを府内全体で進めようということで、この府民会議がスタートしたわけです。

上掛 じつは、私は「ディベロップメント」を「開発」と訳すのには少し違和感があります。「開発」というと山林原野を切り拓くイメージがあるので、人間に関わることであれば「人間発達」、社会に関わることであれば「社会発展」と訳したほうがいいのではないでしょうか。

山川 訳語については議論のあるところですが、「持続可能な開発」という概念を世界的に広げた国連「環境と開発に関する世界委員会」の報告書『Our common Future』では、経済開発と環境や社会発展を調和させるという位置づけで、「開発」ということをかなり意識しているような気がします。

したがって、由来としては「開発」の側面がありますが、今後の社会のあり方として考えれば「発展」ととらえたほうがいいのではないか。要は、経済開発と環境との調和が大切で、両者は相互依存の関係にある、ということを明確にしたのがこの報告書のポイントだろうと思います。

  食品ロスの半分は家庭から

上掛 そうした流れで、食品ロス削減の府民会議が発足したのですね。京都府生協連も委員として参加していますが、ずいぶん幅広い団体から構成されていますね。

山川 それがこの会議の特徴でして、農業から運輸、小売、飲食、消費者団体、福祉団体、フードバンク関係団体、市町村や府の関連部局を含む行政関係まで、さまざまな分野の方がたが参加してくださいました。

上掛 京都府内の食品ロスは、どれぐらいの量ですか。

山川 正確な推計はありませんが、府民会議では、人口比率や経済比率から見て15万トン前後ではないかと推計しました。 ちなみに、日本の食品ロスは約600万トンと推計されていますが、世界全体の食糧援助は約300万トンです。つまり、食糧援助している食べものの2倍の量を日本国内で捨てているわけで、しかも、その半分は家庭から出ています。

上掛 そうすると、消費者一人ひとりの意識や行動がとても大切で、家庭での取組みも重要になりますね。

山川 まさにそうです。とくに食品の場合は、そもそも食べられるものを捨てるのは非常にもったいないことですから、府民会議としては食品ロスの発生抑制を最優先に取り組もうと考えています。 そこで府民会議では、農業から外食産業や家庭まで各段階の食品ロスの発生原因を探り、それに対応した施策を検討してきました。

  食べきれないごちそうはドギーバッグに!

上掛 具体的には、どのような対策でしょうか?

山川 たとえば外食産業では「30・10運動」があります。これは、宴会の開始後30分と終了10分前には自分の席に戻って料理を食べきろうというキャンペーンで、長野県松本市から始まって、いまや全国に広がっています。

また、京都市では食品ロス削減に先行的に取り組んでおられて、「使いキリ、食べキリ、水キリ」を呼びかける「3キリ運動」や「食べ残しゼロ推進店舗」といった取組みを展開しておられるので、府民会議ではこれを府内全体に広げようと考えています。なお、京都市内の「食べ残しゼロ推進店舗」は約500店にのぼります。

上掛 京都府でも認定制度を始められたのですね。最近、このステッカーをお店で見かけることがあります。海外では、食べ残しをドギーバッグに入れてくれたりしますね。

山川 ドギーバッグについて国は、食品衛生法では禁止はされていないとしています。長野県では、生ものや十分加熱されていない食肉料理・たまご料理は避け、飲食店が消費者に「早く食べるように」と説明したうえで、消費者の自己責任で持ち帰ってもらう分にはいいだろうというような見解です。

ただ、飲食店の側からすると、万が一、食中毒が出ると困るので、なかなか進まない面がありますね。 「食べ残しゼロ推進店舗」では、食べ残しの持ち帰りができる、ということも取組みメニューに挙げています。それぞれのお店の取組み内容は、京都府と京都市のホームページで確認していただくことができます。

  賞味期限の「3分の1ルール」も食品ロスに

上掛 よく「賞味期限」と「消費期限」の違いが話題になりますが、これも食品ロス削減と関係がありますか?

山川 はい、関係しています。賞味期限は、品質劣化の比較的遅い食品について、おいしく食べられる期限を示すもので、この期間を過ぎたらすぐに食べられなくなるわけではありません。それに対して消費期限は、お弁当や惣菜、サンドイッチなど、だいたい5日以内に品質が劣化する食品に対して、その安全性を保証する期間で、その期限が過ぎたら食べないほうがよいということを示しています。 賞味期限の場合、3カ月以上保存できる食品も多いのですが、そういう食品の賞味期限に年月日まで書いてしまうと、消費者に「その日を過ぎたら食べてはいけない」と思われてしまうおそれがあります。そこで府民会議では、「○年○月○日」ではなく「○年○月」という表示にすれば食品ロス削減につながるのではないかという議論をしました。

上掛 そうすると、メーカー側の協力と取り組みが必要になりますね。

山川 メーカーの関与はとても重要です。というのも、食品業界には「賞味期限の3分の1ルール」という商習慣があって、これが食品ロスの大きな原因になっていると考えられるからです。

つまり、賞味期限が近いものは売れ残りやすいので、賞味期限の3分の1をメーカーから小売店への納品期限、3分の1を小売店での販売期限とし、残り3分の1は消費者のもとにある、というのが「3分の1ルール」です。たとえば賞味期限が3カ月の食品は、製造から1カ月以内にスーパーに納品して、次の1カ月以内にスーパーは消費者に売り切り、売れ残りは捨てる。この商習慣が日本で生まれてから、スーパーは早めに店頭から撤去するようになりました。

上掛 そうした背景の意味が理解できると、賞味期限の近いものから買うほうが消費者としても合理的ということになりますね。

山川 たしかにそうですが、ただ、そういう消費行動を期待するだけでなく、賞味期限が近づいたら値引き販売をするなど、より有効な方法を考える必要があります。 実際、賞味期限が近づいている食品でも、それなりに値下げするなら買うという人もいますので、そういうニーズに合わせた提供方法によって食品ロスを少しでも削減できればと思います。そもそも賞味期限は、かなり余裕をもって設定されていて、期日を少々過ぎても、おいしく食べることができますから。

  食べものは工業製品ではない 「売り切れ」を受容できる消費者になろう

上掛 新聞などで「フードバンク」の記事を目にしますし、学校・職場・イベント会場・スポーツ施設などに「フードドライブ」のボックスが置かれていたりします。これらも食品ロス削減を狙ったものでしょうか?

山川 企業など、大きな団体がある程度まとまった量の食品を福祉団体などに提供するのをフードバンクと言い、家庭で余っている缶詰等を自治体のイベントの際に持ってきてもらったり、スーパーの店頭にボックスを置いて持ってきてもらうなど、家庭などから集めて、それをフードバンク団体を通して必要なところに提供することをフードドライブと呼ぶケースが多いようですが、どちらも食品ロス削減が目的ではありません。しかし、結果的に食品ロス削減につながる取り組みだろうと思います。

とくに個人から余剰食品の寄付を募るフードドライブは、消費者に認知されないとなかなか食品が集まらないので、行政が積極的に案内することが大切かなと思います。昨年、イギリスに行きましたら、大手スーパーがフードドライブ用のボックスを置いていて、その中にはかなりの食品が入っていました。

また、農産物の規格外品についても、直売所でできるだけ売って、売れ残りはフードバンクに贈り、無駄にしないように努めようという議論を、府民会議ではしてきました。

上掛 店頭で「売れ残り」を見ると生産者に気の毒な気がしますが、欲しいものが「売り切れ」になっていると腹立たしく思う時もあります。

山川 そうですよね。だから、お店の方々は、消費者から「欲しい」と言われたときに物がないと売上に悪影響が出るのではないかと心配して、食品を多めに用意する傾向があります。しかし、それが食品ロスを生んでいる側面もあるので、売る側は「売り切れました」と言い、消費者はそれを受け入れるような関係を構築できるかがポイントだろうと思います。

上掛 時には売り切れもあるということを、消費者が理解しなければいけませんね。その意味で、正確な情報提供とシンプルな制度づくりを通じてやはり人々の意識改革が大事になると思います。

山川 おっしゃるとおりです。いずれにしましても、食品ロス削減に絶対的な決め手はありませんので、上流から下流まで各段階に対応した対策が必要になります。これまでの議論のなかで施策化できたことを推進しつつ、さらに残された課題を検討して、施策化や啓発を進めていきたいと考えています。

  食品ロスを生まない 「生活の知恵」を、次世代につなぐ

上掛 生活協同組合は「3分の1ルール」を緩和したり、「少人数家庭に合わせた少量パックがほしい」という組合員の要望を受けた少量パックや果物のバラ売りなど、売り方にも工夫を重ねたりしてきました。生活協同組合に対しては、どんなことを期待されますか?

山川 高齢層でも若年層でも単身家庭が増えていますので、そうした売り方の工夫は食品ロス削減にとても有効だと思います。 3分の1ルールの緩和についても、生活協同組合はメーカーなど上流の方々ともコミュニケーションしながら、先行して取り組んでくださっていますので、その経験を他の小売業とも共有していただければと思います。

また、生活協同組合の組合員さんは食品に関する意識の高い方が多く、地域で情報発信いただける存在だと思いますので、ぜひ生活協同組合から国の内外の取組みを踏まえて、食品ロス削減のアイデアや取組み情報などを発信していただきたいですし、身近な周りの方がたに伝えるなど、地に足のついた働きかけもお願いしたいところです。

とくにご年配の組合員さんは、野菜を長く保存する方法や残り物のアレンジの仕方など、長年の生活経験から生みだされた知恵をたくさん持ってらっしゃいますが、核家族化が進んで、そうした知恵が若い世代に伝わりにくくなっていますので、生活協同組合の媒体や集まりなどを通じて、食べものを余すところなくいただくための知恵を広げていただきたいと思います。

上掛 日々の暮らしから生まれた知識や技術は、食文化を支える土台であり、食品ロスの削減にも大きく関わっています。ですから、今日のお話は「生活文化の質」を高めていくこと、暮らしや社会のあり方にもつながっていると思いました。

また、学ぶことを大切にする組織として生活協同組合には、そうした知恵を広げていくための学習活動にもいっそうの工夫が必要だということも痛感しました。本日はありがとうございました。


写真撮影・有田知行


プロフィール:山川 肇 (やまかわ はじめ)
ごみの減量政策やごみ減量行動が専門。
最近は3R(リデュース・リユース・リサイクル)のうち、優先順位の高い2R(リデュース・リユース)の推進について主に研究しています。

略歴 1967年生まれ。
愛知県出身。
京都大学大学院工学研究科単位取得退学、工学博士。
京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科の助手、講師、同大学院生命環境科学研究科環境科学専攻の准教授を経て、2015年より現職。

著書には、『3R・低炭素社会検定公式テキスト―持続可能な社会をめざして』(ミネルヴァ書房・共著)、『有機物循環論』(昭和堂・共著)、『拡大生産者責任の環境経済学 循環型社会形成にむけて』(昭和堂・共著)、『廃棄物資源循環学会シリーズ② 地球温暖化と廃棄物』(中央法規・共著)などがある。