伝統と革新、継承と創造

2013年05月20日

130520satuki.jpg 3月27日、あたらしい歌舞伎座が開場した。関東大震災・戦争による空襲などにあいながら、そのつど復興をとげてきた歌舞伎座はこんどで「5代目」。松竹・迫本淳一社長は、日本記者クラブでの会見で「伝統と革新の調和、継承と創造の両輪」と、そのメイン・モチーフをのべた(3月18日)。

しかし、考えてみれば、「継承と創造」あるいは「伝統と革新」というテーマは、たがいに相反するものではない。中村吉右衛門は、歌舞伎にかぎらず「先人の名人上手といわれた方が考えたこと、芸をコピーするだけでもたいへん」で、しかし「それがなくなったら、おしまい」、正倉院の御物の中にあるもののように「どうやってつくったらいいか、わからな」くなってしまうという。伝統を理解し、しっかり身につけてこそ、はじめて自分の芸の精進方向が見え、革新ないし創造が生まれてくるということなのだろう。中村勘三郎、市川団十郎などの名優があいついで亡くなるなかで、先人のマネからはじめることの重要な意味を説く指摘には重いものがある。

 「現在をまず否定することから始めよう」という方がおうおうにみられるが、歴史を深く学ぶなかでこそ、われわれがおかれている現在の位置・課題を広いパースペクティブのなかで認識し、未来にむけての方向性をより正確に定めていくことができると考えるべきであろう。

吉右衛門は「命がけで演じれば、それを見て、若手たちも『俺たちももっとやらねば』と思ってくれるのではないか」という。井上ひさしが遺作『組曲虐殺』で小林多喜二に語らせたラストメッセージは、「あとにつづくものを信じて走れ」だった。しっかり「バトンをつないでいく」ための仕事のし方、「中継ランナー」としての生き方には共通のものがある。<写真:皐月の季節>(2013520日、坂本茂)