「京都の生協」No.104 2021年8月発行 | ![]() |
![]() |
コロナ禍で大きく変わった学生生活と大学生協
── 新しい「孤独感」の中で ── |
新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、新しい生活様式でのくらしに変わり、一年半が過ぎました。そこで今回は、今まで経験したことのない学生生活を強いられた大学生をお招きし、戸惑いながらも、前を向く学生の想いや願いをうかがう座談会を開催しました。学生委員(※)の大学生に本音を大いに語ってもらい、生協に何ができるのか、一緒に考えてみました。[取材日2021年6月22日(火)]
※学生委員とは、それぞれの大学生協の理事会の元に設置される組織委員会として、学生委員会が存在します。自らが組合員の一人として学生が集まり、自ら悩みや不安を解消し、魅力ある大学生活を実現するために「たすけあい」「学びあい」「コミュニティづくり」の取り組みを実践しています。
![]() 奈良県立大学地域創造学部地域創造学科四年生 |
![]() 奈良教育大学教育学部社会科教育専修四回生 |
![]() 立命館大学政策科学部四回生 |
![]() 京都橘大学文学部歴史学科四回生 |
![]() 京都府生活協同組合連合会 会長理事 |
コロナ禍の学生生活と大学生協の状況 |
![]() 西島 それぞれの大学のようすと大学生協の状況を聞かせてください。 渡邊 立命館大学は新型コロナウイルス感染拡大に対する立命館大学の行動指針(BCP)にもとづき、通学か休校(オンライン授業)かを決定しています。今日、久しぶりに大学に行ったのですが、実は去年の4月から数回しか行っていなくて、食堂も1、2回利用しただけです。食堂はパーテーションで仕切ったり、人の流れを一方通行にするなど、感染対策がされていますが、逆に混雑して、お昼の時間にご飯を食べられない学生が何人かいました。 足立 奈良教育大学は前期いっぱいオンライン授業です。一週間前に大学へ行ったら、生協食堂は閉まっていました。購買でパートさん手作りのお弁当が売られていたのでそれを買って、食堂で食べました。 石田 京都橘大学は4月からオンラインと対面授業の併用で、受講希望者が多い講義はオンライン、教室の対面授業は間隔を取って全席指定席です。生協は時間短縮で食堂も購買も開いています。私は大学まで自転車で10分くらいのところに一人暮らしで、普段から週3回ぐらい、授業がない日も学校に行って勉強してご飯も食堂で食べているので、助かります。 開田 奈良県立大学は、オンラインと対面授業の併用です。学校には行けるので、自習室で友だちと一緒にオンライン授業を受けている学生も結構います。食堂は昨年からずっと閉まったままです。学生が多い曜日限定で弁当の販売をしているようです。 西島 学生委員の活動も、オンラインが主ですか? 渡邊 大学生協の学生事務局として龍谷大学を担当していますが、立命館大学と龍谷大学もどちらもオンライン授業で、課外活動は禁止されているので、会議などは基本的にオンラインです。そんななかで新入生の委員も入ってきていますが、まだ実際に会ったことがないまま、会議をして、企画を進めています。 石田 京都橘大学も課外活動には申請が必要なので、会議は完全にオンラインです。 |
オンライン会議のプラス面?マイナス面?新しい孤独感 |
西島 京都府生協連も最近はオンライン会議が多くなっていますが、オンライン会議のプラス面マイナス面はどう感じておられますか? 渡邊 私たちは大学生協の京滋・奈良エリア(京都・滋賀・奈良)として活動していますが、これまで直接会うことがなかった他のエリアの人たちともオンラインで話し合えるようになったことは、大きな成果と感じています。 足立 オンラインは、すぐにつながれるのがいい。これまでは招集して、準備して、みんなが集まってきたわけですが、わずか5分でオンラインの部屋をつくって、会議が始められますね。 開田 どこからでも参加できることも大きいです。先日ある学生が、会議の日に就活で、東京行きだったのですが、新幹線のなかでWi-Fi(※)をつないで会議に参加できました。車内なので声を発することはできませんが、チャット機能(※)を使ってある程度のやりとりもしたようです。 足立 マイナス面は、自然に得られていた情報が得にくくなったことですね。いままでは直接会うことで自然に入ってきた情報が、そのための機会をわざわざつくったり、SNSで質問しないといけない。 石田 瞬時につながれたり、距離的な問題が解消したことはプラスですが、いっぽう、会議の前後や休憩時間の〝雑談〟がなくなってしまいました。雑談で親密になれたり、情報が得られていた部分がありました。オンライン会議では「仲良くなる時間」みたいなものを、意識的に設けないといけないのではと思います。対面だと、終わったあと、「このあとご飯、行く?」とか、同じ方向で一緒に帰れたりしていたのが、オンラインはすぐに始められるけど、終わるときもすぐで。いままでワイワイやっていたのが、「じゃあね、バイバーイ」。プツッ。「ハァ」と、接続を切ったとたんに、突然一人になります。すぐつながれるからこそ感じるようになった、新しい「孤独感」を感じています。 ※Wi-Fi(ワイファイ):ネットワーク対応端末(パソコン、プリンタなど)をWi-Fiルータで無線接続して、インターネット利用を可能にする接続方法 |
オンライン授業─学びの質が変わってきている |
![]() 西島 授業はどうですか。双方向性を保障できているか、教える側の技術のレベルアップも相当必要だと思いますが、その点はどうですか。 石田 世間で想像されるオンライン授業って、たぶんリアルタイムで教授がたくさんの学生相手に講義している感じだと思うのですが、実際はいろいろで、「動画を配信するので見てください(オンデマンド式)」とか、「PDFのレジュメを配るので、別サイトの質問フォームに書き込んでください」とか。 足立 夏休みになると集中講義が入るのですが、本来、半年間かかる授業を数日間でやるわけで、本当に一日中です。これをオンラインでやると、僕は4日間連続取りましたが、目が痛かったです。対面ではなくなった時点で検討の余地があるのでは、と思います。 渡邊 ゼミもオンラインなのですが、Zoom(※)の画面をオフにしたり、音声をミュートにする学生がいるのです。互いの研究に対する意見交換なのに、相手の顔が見えないってどうなのか、と。去年はゼミ以外のオンライン授業も受けましたが、授業のなかで4、5人に分かれて、知らない人とグループワークをする時間があるのです。「何か意見はありますか?」と聞いても、ミュートのままで応答がないとか、オンライン授業は、話さない人がまったく話さなくなる傾向が強まります。学びの質の低下を感じています。 西島 コロナ以前はそういう場面はどうだったのですか? 渡邊 対面授業だと、机が近い人とグループを組むことが多いのです。そのなかで上回生や、誰かが話を回そうとして、それにみんなが意見を出して、発表、みたいな構造だったのが、オンラインでは〝無言の責任感〟みたいなものが育ちにくい気がします。 石田 大きい教室のあちこちでグループができると、ワイワイガヤガヤする声が充満するから、私たちもやらなきゃと、となったのが、オンラインのグループでは、自分たちの声しか聞こえない。すると「黙っていてもいいか」という同調圧力が発生することがありますね。 |
いま、困っていること、下級生にできること |
西島 生活面、暮らしのなかで困っていることはありますか? 渡邊 食生活に関して、うちは両親が共働きで、私はオンライン授業だから毎日一人で家にいるわけですが、お昼がせいぜいカップラーメンとか、面倒なときには何も食べなかったりしてしまいます。 石田 私は一人暮らしですが、以前は大学で友だちや先輩から、「この辺りにこういうお店があるよ」「ここは安い」「ここに病院がある」みたいな話が聞けたのが、いまはつながりがぜんぜんないから、みんなはそういう情報をどこで仕入れているのだろう? と不思議です。地方から出て来て一人暮らしの子は自分一人でネットで調べるしかないのでは? と感じます。 西島 みなさんは4回生なのでコロナ以前も、いまの状況も知っている。いまの1、2回生の学生を見ていてどう思われますか? 何か支援できそうなことはありますか? 足立 ある団体の会合で先日、2回生の子から「今一番したいことは、みんなでご飯に行きたい」と言われて衝撃を受けました。僕たちが学生生活で当たり前にやってきたことが、やれないのだな、と。 石田 いまの1、2回生は入学したときからオンラインが普通です。これまでは先輩から「この課題のときはこういう本がいるよ」みたいなことを教えてもらえたけど、授業形態も変わっているなかでのアドバイスはむずかしいですね。大学生のわずか四年間でも、3、4回生と1、2回生の間には大きな壁、断層ができてしまっています。 |
こんな支援がほしい─社会にのぞむこと |
![]() 西島 こんな支援があれば助かると思うことはありますか。 渡邊 特に一人暮らしの子には、食料支援などは、ぜひ続けてお願いしたいです。そのときも、ただ食品を分け与えていただくより、例えば消費期限が間近の商品だったりすれば、余剰在庫を無駄なく活かせることにつながるし、大学生協も食品ロスをなくす課題に取り組んでいるので、組合員にとってもそうした問題についての学びの機会を提供できるのでは、と考えます。 西島 災害用のローリングストック(※)の更新分を提供してもらうなどすると、一方的に支援を受けるだけではなく、自分たちも社会に貢献できるからですね。 足立 ニーズに合わせた支援も大切だと思います。先月、教育実習が始まる二週間前に生協の職員さんから「自習にはノートが必要だと思いますが、手元にありますか? いまなら配送しますよ」とメールをもらって、うれしかったです。 西島 大学や社会全体に対して大学生として言いたいことはありますか? 渡邊 私学でそもそも授業料が高いうえに、学校に行ってもいないのに一年分の施設使用料を取られるのはどうなのか?と。大学側もオンラインシステムの構築にお金が必要なのは理解できますが、資料を配布するだけのオンライン授業に多額の授業料を払うのはどう考えても見合っていないです。 石田 私は去年、コロナが流行を始めたとき、親から「実家に避難して来い」と言われて、家賃を払いながら半年間、実家に帰っていたのです。学生の間で「何分の一かでも学費を返してください」という署名が結構集まったのですが、大学側には受け止めてもらえませんでした。でも京都橘大学は、大学独自の奨学金制度「つながるたちばな奨学金」(※)を創設したのです。ただ成績がトップレベルとか、親の収入条件とか、基準が厳しい。こういった大学の取り組みに対しては社会的な支援もほしいところですね。 |
コロナ禍での就職活動 |
西島 就職活動での苦労はありますか? 開田 オンライン就活で感じることは圧倒的な情報不足と孤独感です。「はっきりと文字にまではできない雰囲気」というものがつかめないのです。ネットの情報を自分で取りにいくわけですが、就活生同士で情報交換もできないし、まったく一人、孤独にたたかっている感じです。 渡邊 私が最初に希望した業種では今年は採用なしの企業もあって、早々に夢が断たれました。方向を変えて就活を継続して説明会も面接もすべてオンラインで、会社訪問もないまま、内定をいただきましたが、やっぱり実際に見ていないので、入社したあとの不安感を抱えたままです。 西島 いつ収束するのか、元に戻るのか、社会全体の動きが見通せない状況ですが、大学生の状況はこれからも発信していきたいし、生協として具体的に支援できることも考えていきます。今日はありがとうございました。 |
写真撮影・豆塚 猛 |