「京都の生協」No.105 2022年1月発行 今号の目次

成年年齢引き下げを通して、消費者問題を考える
── 若者が消費者被害に遭わないために、わたしたち大人ができること ──

2022年4月から民法の改正により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。18歳に達すると親の同意を得なくても、自分の意思でさまざまな契約ができるようになります。契約の知識や経験が少ないため、消費者トラブルに遭いやすくなることが問題視されています。今回は民法や消費者法を専門にされておられる坂東俊矢先生に、約140年ぶりに成年の定義が見直されることで何が変わるのか、どのような課題があるのか、これからの消費者運動がめざすものなどについて、お話をお聞きしました。


京都産業大学 法学部教授・弁護士
坂東 俊矢ばんどう としやさん

京都府生活協同組合連合会
西島 秀向にしじま ひでひさ

  現場感覚を重視するきっかけになったこと

西島 先生は弁護士であり、大学では民法、消費者法を教えておられますが、ご自身はなぜ消費者問題や消費者法に関心をもたれるようになったのですか。

坂東 私は民法を学ぼうと思って大学院に進学したのです。ところがある日、先生から「いま、学生の間でマルチ商法被害が多発している。お前は童顔だから、騙されたフリをして体験調査に行ってこい」と言われて、ポケットに録音機を忍ばせ、大阪駅前のビルのなかの会社に行ったのです。

部屋に入ったら、「よくいらっしゃいました!」と、先輩がたくさん出てきて、握手してくれました。天井にはシャンデリア、目の前には人工宝石がたくさん並んでいて、まるで別世界です(人工宝石のマルチだったのです)。飲物が出てきたり、最初は親切だったのが、2時間ぐらい経った頃から「お前にはなぜ、この取引がもうかることが分からないのだ!」という空気になりました。私は調査が目的で、絶対に契約しないという強い意思があったのですが、その日、新たに来た13人のうち、12人が契約して、しなかったのは私一人だけでした。

私はそれまで「契約」とは、お互いの自由な意思で締結されるものだと信じていました。しかし世の中には理屈では通用しない世界がある。あんな場所に連れて行かれたら、ほとんどが自分の意思とは関係なく契約してしまうと思いました。正直、怖いのです。契約しないと帰してもらえそうにない。いったん契約して、あとでクーリングオフしようか?(そういう知識だけはあったので)いや、住所を知られたらまずい? もしニセの住所を書いた場合、クーリングオフできるのか?

……悩んだあげく、ねばるしかありませんでした。けっきょく、朝の10時に潜入して、最後に「わからないヤツだ!」と帰されたのは夜中。京都へ帰る阪急電車は確か最終の一本前でした。 それまでも消費者の視点で民法を学ぼうとは思っていました。しかし、その体験は私の勉強の姿勢を大きく変えることになりました。つまり法律の知識理論も大切だけれど、現場感覚を抜きにした研究や制度では意味がない。それが消費者問題に入っていくきっかけでした。


  「保護」から「権利」としての消費者問題へ

西島 民法のなかでも消費者法がご専門なのは、そんな体験があったのですね。

坂東 消費者問題は、かつては行政法の一部だったのです。1968年に「消費者保護基本法」ができたときは、行政が悪質な事業者を規制することが焦点で、消費者は保護の対象でした。大学の授業でも、消費者問題は行政法の一部として少しふれる程度でした。

ところが「消費者基本法」(2004年)になってから何が変わったかというと、保護はもちろん大切ですが、被害に遭った消費者が、自らの権利として訴えを起こせるようになったことでした。一人ではできないから、適格消費者団体(※)で、みんなでやろう、と。つまり従来、保護として行政法が担当していた消費者法は、権利の問題として、民法に移ってきたのですね。その典型が2001年施行の「消費者契約法」です。 「消費者契約法」で最初にターゲットになったのが、大学でした(笑)。入学時に前納した授業料を、学生が入学しなかった場合も大学が返金しないことに対して、消費者契約法に反するとして、返還請求訴訟が全国で提訴されました。でもこれは当たり前ですよね。授業を提供しないのに授業料を返さないなんておかしいです。そのことに気づくことで大学は社会に対する説明責任を意識できる。そして、社会的な役割をきちんと果たせるようになる。事業者も含めて、消費者の目線から見て「公正な取引とはどんなものか」とあらためて考えていくきっかけになったのだと思います。

※適格消費者団体(消費者庁HPより抜粋)
不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人を「適格消費者団体」といいます。全国に22団体あります。なお、これまで適格消費者団体による差止請求訴訟は、78事業者に対して提起されています。
また、適格消費者団体のうちから新たな認定要件を満たす団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人を「特定適格消費者団体」といいます。全国に4団体あります。なお、これまで特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟は、5事業者に対して提起されています。
(令和3年10月末現在)


  そもそも消費者問題とは何か?

西島 先生は消費者問題とはそもそも何だと考えられますか?

坂東 安全の問題、契約の問題、いずれにしても消費者に生ずる被害そのものです。注意が必要なのは、その人だけに発生した被害との区別です。同じような被害が他の人にも生ずる、同じ環境だと同じように契約をしてしまうかもしれない、ケガをしてしまうかもしれない、それが消費者問題を考えるときのポイントです。

もう一つ大切なことは社会の変化と共に起こる、という点です。例えば個人情報保護が広まったとき、家庭用のシュレッダーが売り出されました。ところがシュレッダーが家庭に入ったとたん、指をケガする子どもの事故が次々と9件も発生した。子どもが手を入れたら停止する機能をつけておけば事故は起こらなかったのです。シュレッダーという事務に使う機械が一般家庭に入ったらどんな危険があるのか、そこに想像力を持つことが必要だったのです。

よく消費者目線と言いますが、消費者の視点で製品の安全性が考えられたり、契約の環境が公正なものになっていったりしたら、社会はもっとよくなっていくと思います。

西島 消費者目線や常識が、製品の安全性などで生かされないのは、想像力の欠如のほかに、どういう理由が考えられるのでしょう?

坂東 やはりいままでの社会で、消費者が主人公ではなかったからかもしれませんね。日本は行政社会で、行政が安全を確保することになっている。本来、民間同士の争いである消費者紛争を市町村の消費生活センターが解決してくれる。こんな親切な国はない。しかしいっぽうで、本来、消費者がやるべきことを行政がやってくれるから消費者としての意識が育ちにくかったのです。行政に「これもやって」とは言うけれど、自分たちで努力をして「これを勝ちとろう」という空気にならない。もちろんPL法(製造物責任法)をつくったときなんかはみんなでがんばったのですけどね。

西島 たしかに行政に頼りすぎていて、市民社会としての市民の自覚が十分育っておらず、消費者と事業者が向きあってこなかった面はありますね。


  20歳から18歳へ─成年年齢の引き下げについて

西島 2022年4月から、成年年齢が18歳になりますが、予想される若年層の消費者被害や課題などはどうでしょうか。

坂東 まず、18歳、19歳の若者が未成年者取消権を行使できなくなります。この影響はとても大きい。未成年者の契約については、法定代理人、親がいれば親ですが、その同意がなければ、契約を取り消すことができます。不本意な契約をしてしまった未成年者の保護に、この取消権は大きな役割を果たしています。

未成年者取消権を行使できなくなる18歳、19歳の若者に、美とお金に関する相談が増加することが心配されています。

例えば、未成年者の時には美に関する「健康食品」についての相談が多い。ところが、20歳になると、それが高額なエステになったり、プチ整形なんて言われる「美容医療」にまで広がるのです。その背景には、20歳になったらクレジットカードを使うことができることがあります。こうした被害が18歳、19歳でも問題になるように思います。

マルチ商法とか、暗号資産取引とか、そんな楽してもうかるという被害も、「君も大人だから」ということで、18歳・19歳の若者にも広がることを危惧しています。国民生活センターも「狙われる18歳・19歳『金』と『美』の消費者トラブルに気をつけて!」という報道資料を公表しています。

法改正を含めて、広がる被害に対応した法の準備、また被害を受け止める(大人の側の)社会の準備が不可欠だと感じています。

また、高校3年生で婚姻ができるようになります。婚姻届の提出には証人2人が必要ですが、18歳になったクラスの友達2人に名前を書いてハンコを押してもらえば、市役所は受け付けざるを得ない。それを高校がどう受け止めて、社会がどう受け入れていくのか、みんなが真剣に考えないといけないのです。

もちろん、大人の入口に立つ18歳の高校生に「大人になることはどういうことか」という教育を体系的に実施することも大切だと思います。

西島 そういった体系をまとめていく役割は、どこができると考えられますか?

坂東 またまた行政頼りですが、消費者庁と文部科学省が話し合ってほしいと思いますね。高校の現場などもきちんと踏まえた議論が必要です。でも消費者団体もそこに加わって、役割を担ってほしいと思います。

※消費者被害の詳細は消費者庁HP「令和3年版消費者白書」をご覧下さい。


  これからの消費者運動のありかた 若い人にどう関わってもらうか

西島 私が理事を務めている消費者団体も最近は、消費者が消費者としての役割、責任を主体的に果たしていくような行動様式をもっと知らせていく活動が大切だと考えています。社会全体が、地球環境や、人と社会、地域などを配慮したエシカル消費(倫理的消費)などをすすめていこうという方向になっています。上から言われるのではなく、消費者団体が提案していく時代になってきたなと感じています。いまの消費者団体が抱えている問題の一つは、活動の担い手の年齢が上がっていることで、もう一つが若い人に消費者運動にどう関わってもらうかなのですが、何が必要でしょうか?

坂東 いま、若者は、すごく忙しくなっています。授業もオンラインで、いろいろな情報が入ってくるけれど、それを見るのに精一杯です。これだけ多様な情報化社会のなかでは、できるだけ若者が関心を持てる、自分にも起こり得る、身近な事例をきちんと伝えることが必要だと思っています。

私のゼミで、テーマパークの入場チケットを買って、行けなくなったとき、キャンセルできない、返金してもらえない、転売もできない。そういう問題を適格消費者団体が裁判をやっているよ、という話題をすると、学生たちはとても関心を示しました。

  生協へ期待すること

西島 生協への期待、要望などはありますか。

坂東 生協は、販売だけでなく、製品そのものの価値を伝えられる場所だと思っています。これからの消費者運動は、悪質な業者の被害から消費者を守るだけでなく、あなたの消費行動が世界の未来を変えていく、貢献できるのですよ、というメッセージをいかに伝えるかがキーワードだと思います。製品がどんな過程で生産者の努力でつくられているか、食品ロスをなくすために生協が取り組んでいること、いろいろな機会を通じてそんな情報を提供することで、ライフスタイルを提案したり、生協で買い物することで、あるアクションに自分も参加できる、そんな一種の満足感みたいなものが得られれば、自立する消費者を育てていくことにつながっていくと思います。

西島 ありがとうございました。


写真撮影・豆塚 猛


この本は、消費者法を消費者被害の救済のための法律としてだけでなく(もちろんそれは大切なのですが)、消費者が自らの選ぶ権利の行使を通して、自らの消費生活を安心なものにするとともに、社会にも貢献ができるための基盤となるものであるとの考え方でまとめられた消費者法の教科書です。だからタイトルは「これからの消費者法」。



プロフィール:坂東俊矢 (ばんどう としや)氏

京都産業大学法学部教授(大学院法学研究科教授)

学歴・学位
龍谷大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学・法学修士

専門分野 民法・消費者法

主な経歴
2004年 京都産業大学大学院法務研究科教授(2018年3月まで)
2018年 京都産業大学法学部教授・大学院法学研究科教授(現在に至る)
2005年 弁護士(大阪弁護士会)(現在に至る)
京都府消費生活審議会会長、消費者支援機構関西(KC's)常任理事、消費者ネット関西副理事長、日本消費者法学会理事など

主な著書・論文等
谷本・坂東・カライスコス『これからの消費者法─社会と未来をつなぐ消費者教育』法律文化社(2020年4月)
坂東・細川『18歳から考える消費者と法(第2版)』法律文化社(2014年8月)
島川・坂東『判例から学ぶ消費者法(第3版)』民事法研究会(2019年11月)
「若年消費者の契約被害の実際から考える消費者法の課題(再論)」消費者法研究11号11頁(信山社・2021年11月)
「高齢の消費者と不動産取引─有料老人ホーム入居契約を素材に」現代消費者法44号53頁(民事法研究会・2019年6月)