「京都の生協」No.109 2023年8月発行 | ![]() |
![]() |
鳥取から京都に牛乳が届いて半世紀 「せいきょう牛乳」のふる里〜大山乳業を訪ねて〜 |
1970年、京都生協の産直第1号の商品として誕生したのが、大山乳業から届けられる「せいきょう牛乳」です。大山山麓の豊かな自然のなかで育まれるおいしい牛乳はたちまち多くの組合員に広がり、今では大学生協にも供給が広がっています。今年の夏、3年ぶりの再開となる、「も〜も〜キャンプ」(*)開催の地、
![]() 大山乳業農業協同組合 代表理事組合長 |
![]() 京都府生活協同組合連合会 |
大山乳業のなりたちと大手メーカーとの違い |
![]() 西島 まず、いま乳業メーカーがどんな状況にあるのか、大山乳業さんの位置づけなどからお聞かせください。大山乳業さんのように生産から販売までやる乳業は、全国にどれぐらいあるのですか? 小前 生産・処理・販売までおこなう乳業は、現在、全国で20団体くらいです。大山乳業はなかでも比較的大きいほうです。一番、規模が大きく有名なのが、北海道のよつ葉乳業さんですね。 大山乳業の前身は、 西島 大手乳業メーカーとの違いはどんなところにありますか? 大手メーカーさんは生乳の生産はしないのですよね。 小前 各県にできた指定団体は、その後ブロック化がおこなわれ、いま全国に9つのブロックがあります。鳥取県は中国地区で、中国生乳販売農業協同組合連合会(略称:中国生乳販連)という組織の下に、中国5県がまとまっています。実際には生産者から大山乳業の工場に生乳を直接集めて、大山乳業として生産から処理・販売まで一貫してやっているわけですが、手続きとしては、いったんこの中国生乳販連に生乳を販売して、そこから買い取って、処理・販売するという流れになっています。大手メーカーさんもまた、この中国生乳販連から生乳を購入して、工場で加工をして、販売しておられるわけです。 ![]() 西島 大山乳業さんでは牛乳も乳製品も、集乳から48時間以内に製品化されたものが京都に届けられていると聞きましたが。 小前 鳥取県は小さな県で、大山乳業の本所工場が鳥取県のほぼ中央にあることから、生産者が集乳した生乳は2時間以内に工場に入ってきます。そこで検査を受けその結果を工場内のミルクタンクで待ちます。合格した生乳は、翌日、パックや瓶に詰められたり、一部はヨーグルトなどに回ったり、処理されていくわけです。いまはD1(翌日)出荷することになっています。 近畿にある乳業メーカー、大手メーカーさんは、中国生乳販連から生乳を買っていただいています。需給量が足りないと、北海道からも生乳を仕入れるわけです。北海道は牧草の自給率が高く、質のいいおいしい生乳を生産されていますが、京都に送るには、牧場を出て、クーラーステーションまで来て、そこから輸送できる容器に詰め替えられて港へ運ばれ、フェリーで舞鶴に着いて、そこから工場へ、となりますから牧場を出てから3〜4日かかってようやく工場で検査、となるわけです。もちろん5度とか7度以下とかの温度管理で輸送していますが、ただ、鮮度という点では、その地域地域の、酪農を専門とする農協のほうがはるかにいい、ということはあると思います。 6年くらい前に週刊誌で、食に精通したジャーナリストさんが「日本一老けない牛乳は鳥取にある」という記事を書いてくれました。それはやっぱり鮮度だと。鳥取県は、非常に小さな県で、集乳も短時間で済み、京都までも5、6時間で配送できますから、消費者には新鮮な牛乳を届けられます。大手のメーカーさんと比べて、私どものような酪農専門農協の生乳は、新鮮さという点では違いがあると思っています。 |
おいしい牛乳、質の高い牛乳とは? |
![]() 西島 北海道の牛乳の話が出ましたが、質の高いおいしい牛乳という点で、乳牛の健康管理、食餌管理などで、工夫されていることはありますか。 小前 鳥取県では、自給飼料の生産に積極的に取り組んでおり、中国管内でも最も自給率が高い県です。表作でトウモロコシ、裏作でイタリアンライグラスという牧草を作付けし、それをサイレージ(※)にして、自給飼料として給餌しています。適度に水分がある草を漬物のような状態にして数か月間、寝かせるのです。すると発酵して非常においしい飼料となり、暑い夏場なども好んで食べてくれます。夏場はどうしても暑さで牛の食が落ち、乳量自体が減り、成分的にも乳脂肪分などが下がるのです。まあ若干下がるのは、人にとっても生理的に合っているとも言えるかもしれません。夏場はこってりした牛乳よりも、ちょっとさっぱりした牛乳のほうが好まれ、逆に冬は脂肪分や無脂乳固形分が多い濃厚な牛乳のほうがいい、と。しかし夏場でも乳脂肪分3・5%を切るような脂肪分ではいけないし、鳥取県では夏でも標準よりも0・2%くらい高い基準でパック詰めしています。 また梅雨や夏の暑い時期は、牛がストレスを感じやすく、からだの免疫性が落ち乳房に炎症などが起こったりしないように、環境を良くし、牛のベッドの乾燥を保つことや、飼料のバランスを考えて牛が体調を崩さないように取り組んでいます。大山乳業の牛乳が「おいしい」「あと味がすっきりしている」と言っていただけるのは、そういった理由なのです。 |
産直牛乳が始まった1970年当時牛乳の主流は「加工乳」だった |
![]() 西島 京都生協が大山乳業さんからの産直をはじめた1970年の頃、日本では牛乳といえば加工乳が主流だったと聞きます。 小前 そうですね、当時は日本中で、生乳が足りない状態で、大手メーカーさんが、脱脂粉乳を加えたり、脂肪分としてヤシ油を入れたりして加工したものも「牛乳」として販売していました。これは別に飲んで身体に悪いものではないのですが、やっぱりおいしくなかったでしょうね。鳥取県ではちょうどこの頃から生乳の生産が徐々に増え、宅配牛乳をはじめたり、鳥取県生協での牛乳の取り扱いがはじまっていました。その頃、京都生協の組合員さんから、「家族みんなでほんものの牛乳を飲みたい」という要望があったのです。 西島 京都生協にとっての産直商品の第一号でしたね。当時は一日に2000本くらいだった牛乳の販売が、半年で1万6000本まで増えました。それまで加工乳を飲んでいた組合員が、牛乳がこんなにおいしいものか、と口コミで広まっていったのですね。「せいきょう牛乳が飲みたいから生協に入った」という人も増えました。 小前 私もそんなふうに聞いています。そういう思いは大変ありがたいですし、生産者としても安定的に牛乳を消費し続けてくださることに、心から感謝しています。 西島 そういう歴史は、時代が変わっても、本当に忘れてはいけないと思いますね |
乳価への理解と、牛乳を飲み続けることが、酪農を守ることに |
![]() 西島 ところで乳価については、どうでしょうか? ロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格が高騰し、食料品価格が軒並み値上がりしており、円安も続いています。 小前 ここ2年ほどで、輸入飼料の価格が1・8倍になりました。例えば牛乳1リットルの価格が100円だとすると50円、だいたい50%が飼料代にかかっています。輸入だろうが自給飼料だろうが、半分はエサ代です。そのうえ施設や機械の減価償却費、修理代、電気代などが30〜35%。残りの15〜20%くらいが利益として残るわけですが、50%を占める飼料代が1・8倍になれば、完全に赤字です。 乳価は最低でも30円上げないと再生可能レベルにならないです。「そんな赤字でよく経営がやれるな」と言われますが、いまは行政からのコロナ支援金があるからですが、ここ2年ほど、どの酪農家でも、設備や機械のメンテナンスができていません。おそらく何年か先にはこの負債が確実に回ってきます。酪農経営はいま危機的な状況です。 西島 危機を脱するために、どんな方策や努力が考えられますか? 小前 ひとつは乳価を適正価格に上げることと、為替や世界の飼料価格の変動に振り回されないように、さらに自給率を高める、国内資源を有効活用することですね。 酪農、特に牛乳に対しては、食肉と違って保障がほとんどありません。これから後継しようという人にとっては先行きが不安定です。生産コストが上がっても価格転嫁ができない分を国が保障する。ヨーロッパのような所得保障のしくみがないと、将来的に安定した酪農経営はできません。 西島 消費者は牛乳の値段が上がることに対して、「はい。わかりました」とはなかなか、言えないですが、日本の酪農を守っていくいくことは、理解していく必要がありますね。 小前 ある程度の価格を理解してほしいこと、それから牛乳を飲み続けてくださることが一番です。コロナ禍で、インバウンドや外食が減り、乳製品がダメージを受けています。そこに乳価が上がり飲用の消費が減ると、いまでも過剰な乳製品在庫がまた増えることを懸念して、大手メーカーは乳価の値上げに消極的です。とにかく一杯でも多く牛乳を飲み続けてください。 西島 そのことが日本の酪農を守ること、消費者市民社会として、消費者も生産に責任をもつことにつながるわけですね。 |
コロナ後の生産者と消費者の交流の再開 |
![]() 西島 そういう意味からも「CO-OP牛乳産直交流協会(※)」など、これまでやってこられた生産者と消費者との交流の場はこれからもますます重要ですね。 小前 産直交流協会は立ち上げから33年になります。組合員と生産者が参加するフォーラムや、生産者が現地に出かけて組合員さんと交流するなどで、ここ3年ほどコロナで活動できませんでしたが、これからは生産者の思いを届ける、また消費者の方の声を聞かせてもらう機会を数多くもっていきたいと思います。 西島 生産者と消費者が直面する問題を共に分かち合い共有しあって、解決の道を探していく。消費者市民社会の一員として、消費者の立場からもSDGsが掲げるような持続可能な社会をめざし、生産者と共に責任を持ち合える消費者市民社会をつくっていく。とてもいい活動だと思います。私も25年ほど前に、一組合員として「も〜も〜キャンプ」に参加して、この美歎牧場に来たことがあります。一番印象に残っているのは、牛乳をぐるぐる攪拌するだけでバターができたことでした(笑)。 小前 京都生協さんは、毎年、「も〜も〜キャンプ」にたくさん参加していただいています。これも今年の夏からようやく再開しますので、ぜひ大勢来ていただいて、大山の空気を感じ、満天の星空のもと、おいしい牧草を食べて育つ牛たちをじかに見ていただき、こういう環境で生産される牛乳に理解を深めていただき飲用増加につながっていくことを期待しています。 |
デジタル化がひらく未来の可能性 |
![]() 小前 時代の流れでもあると思いますが、以前なら共同購入の井戸端会議で「やっぱりせいきょう牛乳はおいしいね」とか口コミの〝力〟があったと思うのです。コロナがあり、また生協さんの仕組み自体も個配が主流になったり、注文もチラシではなく、パソコンやスマホになったりと、これは生産者同士にも同じことが言えますが、人と人とのつながりが希薄になってしまわないか、心配なことがあります。 西島 同感です。産直製品ができた1970年頃は、やはり〝人が集まる〟ことが力になりました。集会を開くことで牛乳の利用が伸びた。いまは一人ひとりの多様性が尊重される傾向があります。しかし、いっぽうで、例えば「も〜も〜キャンプ」に参加した親子が、キャンプの様子を動画でYouTubeに配信し、それを見て、キャンプに行きたい、とか、「牛乳をこんなふうに飲む」という動画を見て、消費が伸びたとか、そういう新しい結びつき方、コミュニティの広がり方にも可能性はあると思います。コロナ禍の3年間は特にそのことを実感させられました。 小前 その通りですね。以前なら商品交流会やミニ懇談会でも、直接その場に行かなければ参加できなかったのが、いまはオンラインで、小さいお子さんがいても自宅から参加できますね。そういう機会を増やして、新たな時代の井戸端会議の場がつくられるといいですね。そんな取り組みを生協さんと一緒になって、我々も仕掛けられたらいいなと思います。 西島 これからも、ぜひよろしくお願いいたします。 |
写真撮影・豆塚 猛 |
![]()
|
|