「京都の生協」No.110 2024年1月発行 今号の目次

大切な人との絆を深め、幸せを生む「行事食」

 おせち料理など、季節ごとの日本の行事に欠かせない行事食。実は1年に20回ほどの行事食があるといいます。
 「忙しい」「手間がかかり面倒」などの理由から、存在感が薄れがちなこれらの行事食ですが、季節を感じ、旬の食材をいただく喜びが味わえる貴重な生活文化でもあります。さらに、家族や仲間など大切な人との絆を深める意義もあります。
 料理研究家の小宮理実さんに、行事食の魅力や普及への思いをお伺いしました。


料理研究家・一般社団法人行事食協会 代表理事
小宮 理実 こみや りみ さん

京都府生活協同組合連合会
西島 秀向 にしじま ひでひさ

  人の輪がひろがる行事食

西島 まず行事食とはどのようなものなのでしょうか?

小宮 日本には昔から暦や季節の流れに沿って、お正月や節分、お雛さま、お花見、端午の節句というように年間行事が20以上あります。そうしたハレの日にいただくお料理が行事食ですね。

西島 ほぼ二十四節気それぞれに合う料理があるわけですね?

小宮 まさにその通りです。季節に応じた食材で行事を楽しむ。昔の娯楽の一つだったんでしょうね。

西島 確かに。コロナ禍でオンラインの会議などが増えて、以前は対面で雑談や食事を共にすることで、より関係が深まっていたんだなとあらためて実感しました。

小宮 やっぱり食べ物があると和みますし、お酒があると本音が出ますよね。仲間内で気持ちを高めたり癒されたりという〝食べ飲みニュケーション〟が年に20回ほどあることで、結びつきが深まっていたのかなと思います。


  料理研究家としての出発点はおせち料理

西島 どのような経緯で料理研究家になられたのですか?

小宮 私は京都の御所の近くで古くから商売をしている町家で育ちました。祖母、母、私と3代での暮らしをとおして、京都の昔ながらの行事食や普段の食事を受け継いできました。特におせち料理は幼い頃からお重箱をやわらかい布で拭いたり、早めに詰めていいお煮しめの段を盛り付けたり。できることからお手伝いをして、最後には自分ですべてつくれるようになりました。そうやって自然と料理が好きになっていったんですね。

それで、結婚して夫の転勤にともない東京に住むことになったとき、食に関するコーディネーターの仕事を紹介いただいたんです。東京にいたのは一年だけでしたが、うつわ選びから盛り付け、レシピの考案までさまざまな活動をするなかで、料理研究家としてやっていきたいと考えるようになりました。そして、京都に戻って2007年に、まずは料理教室を始めたんです。

西島 それが「フクチドリ」なんですね。この名前の由来は?

小宮 子どもの頃から鴨川が大好きでよく遊びに行っていて、鳥の群れを見て「大きな鳥の形になって飛んでいるなぁ」なんて思っていました。料理教室を始めるにあたり、「小さな鳥もたくさん寄れば大きな鳥になれるから夢が叶うんじゃないか」と考えて、小さな鳥の千鳥に福を乗せて「幸せ運ぶフクチドリ」と名付けました。

西島 おせち料理も同じ名前で監修されていたんですよね。

小宮 はい、ちょうどその頃、百貨店のバイヤーさんに自分のつくったおせち料理の写真を見せながら、生まれ育った家での暮らしについてお話しする機会がありまして。食育を体現しているそのプロセスに価値があると、おせちの監修をすすめてくださったんです。そこから、コロナ禍になるまで続けさせていただきました。

西島 勉強のために京都の料理店もたくさん回られたとか?

小宮 そうですね。和食一つとっても何が正解なのか食べに行かないとわからないと思ったんです。このとき、たくさんの他府県出身の方が京都にあこがれをもって来られて、修業をして京都の料理を継承されている様子を目の当たりにして、「京都に生まれ育った私はもっと誇りをもって見つめ直さないといけない。大事なことは足元にある」と気づきました。そして、食を通じて京都のよさを伝えることが私の使命だと意識するようになりました。 また、尊敬の念をもってお聞きすると、人気のお店の方ほど家庭でおいしくつくるコツなども親切に教えてくださるんですね。一年の野菜の動きを知るためには八百屋さんに聞くのが一番ですし、もう、まわりの方すべてが先生でした。


  一度離れたからこそわかる京都のよさ

西島 以前はそれほど京都の魅力を意識されていなかったということですか?

小宮 そうですね。京都って一歩引いて控えめにするのが美徳という面があると思うんです。若いときは西洋的なものへのあこがれがあり、ないものねだりというんでしょうか。好奇心が外に向いていましたね。 東京に一年住んでみてスピード感がまったくちがうなと感じました。それが東京のよさではあるのですが、トレンドの移り変わりが早く、みなさんがそれに集中して動いていく。その勢いに私も一生懸命ついていっていたのですが、京都に戻ってみるとゆるやかな風のなかに季節を感じて過ごす心地よさを実感したんです。

西島 私も転勤で首都圏に9年程いましたが、同じようなことを感じました。神社仏閣の庭園なども京都に帰ってきてから熱心に回るようになりましたね。

小宮 本当にいつでも行けること、当たり前にあることの大切さが、一度離れるとすごくわかりますよね。 私の家のお台所に小窓がありまして、比叡山が見えるんですけど、季節感はもちろんその日のお天気のうつろいも感じられて。いまは、そんな日々のちょっとしたことに幸せを感じています。


  一般社団法人 行事食協会を設立 ルーツは祖母からの食の英才教育

西島 まわりの方すべてが先生ということでしたが、根底にあるのはおばあさまからの教えなんでしょうね。

小宮 はい、私が最も影響を受けた師匠はやはり祖母ですね。中学1年生まで同じ部屋で寝起きしていて、寝る前にいつも昔話を聞かされていました。「昔はこういったお祭りごとには、こんなお寿司をつくって食べたんよ」とか、食いしん坊だったのは私も共通していて食に関する話が多く、いまも私の大切な財産になっています。 現代では行事食というと「そんな手間もかかるのにわざわざするの?」という風潮がありますが、祖母にとっては当たり前のことだったんですね。祖母も自分の母親からしてもらっていたから、その時季になったらつくろうかとなり、家族と食べる。だから、私も節分だったらイワシを焼くというように、何もしないとさみしい感じがします。

西島 身についていて、自然のことだと思っていたと。

小宮 はい。行事食の英才教育を受けていたみたいですね(笑)。ですが、世の中では存在が薄くなってしまって…。日本の行事のよさは奥ゆかしさにあるのですが、ハロウィンのように華やかなパフォーマンス性のある西洋文化の影響が大きいのでしょうね。 いま「おせちの黒豆はなぜ食べるのか」など行事食の意味や歴史などをお話しするなかで、自国の食文化を知らない方がとても多いことを実感します。このままではアジアでひとくくりにされてしまう。そんな危機感さえ覚えます。

西島 そこで、一般社団法人 行事食協会を設立されたわけですね。

小宮 おせちに限らず年間で約20ものすばらしい行事があり、昔の人は家族や仲間といった大切な人との絆を深めていたことを思うと、もう一度そうした機会を復活させたいという気持ちになりました。そのためにはまず日本の食文化をきちんと伝えられることが大切なのではないか。それで、2023年の夏に一般社団法人を立ち上げて、仲間が集ったわけなんです。

西島 メンバーはどのように集まったのですか?

小宮 それがもうびっくりなんですが、私の一冊目の著書「福を呼ぶ 京都 食と暮らし暦」を読まれた方が趣旨に賛同して、SNSを通じて全国から集まってくださったんです。神様が引き寄せてくださったのかなと思うほどうれしいことでした。 おせち料理をはじめ行事食というと、「ハードルが高い」「食材が高い」「準備が大変」などのイメージをもたれがち。いまは調理器具一つとっても便利なものがたくさんありますので、協会としていまの時代に合った取り入れやすい形で伝えていこうとしています。私ひとりでは限界がありますので、全国で語り部となる講師を8人育てていまして、2024年から本格的に始動の予定です。

西島 子どもたちへの食育にも取り組んでおられますね。

小宮 食育は2017年から始めました。おせち料理の意味やつくり方・食べ方などを伝えるほか、ご縁があり岡山県で七夕に関する食育にも携わらせていただいています。 菓子食品卸株式会社大町にサポートいただき、瀬戸内市の美和小学校で七夕料理のそうめんを食べる意味を歴史的背景とともに伝え、調理の指導もおこなっています。宮中では平安時代から七夕にそうめんを食べる文化があったのですが、現代では一部の地域をのぞくと途絶えてしまっていたんです。それを復活させようと取り組んでいます。


  ハレとツネのバランスが大切 共通するのは感謝の思い

西島 伝統的な食の存在感が薄れる一方で、高級食材や珍しい食材は簡単に手に入るようになりましたね。

小宮 人間が欲求のままにすすんだ結果、飽食になったのだと思います。でも、「本当においしい、体によいものは昔からあったもの」とみなさん気づき始めているのではないでしょうか。飽食の時代といわれる一方で、魚が獲れなくなっている状況もあります。頭も残さずよく噛んで食べるなど大切にいただく意識ももちたいですね。 行事食はハレの食事ですが、贅沢なごちそうという意味ではありません。また、おばんざいのようなツネの食事も大事な食文化の一環です。普段はつましく、質素倹約。協会の活動で他の地域に伺うと、京都に限らずどこでも同じことをされているんだなと感じます。 ハレとツネのバランスを大切に、どちらも感謝していただきたいですね。


  小さな幸せを生む〝暮らし道〟

西島 著書に「白い布きんを使いまわして最後はぞうきんに」「金継ぎをすると愛用のうつわがもっと好きになった」と書かれていて、すてきな話だなと思いました。昔は着物をほどいて洗い張りをしている風景なども京都の街では身近にありましたね。

小宮 そうですよね。衣食住すべてにおいてものを選ぶときに、安易に選ばず先々活かし切れるかどうかまで考えることが大切だと思います。祖母の話ですが、着物をほどいて仕立て直したり、最後はお布団にしたりと使いまわしをしていました。私も最近着物を明るいピンク色から紫に染め替え直したんですよ。いま、SDGsの取り組みが注目されていますが、昔から当たり前にやっていたこともたくさんあります。金継ぎもそうですが、「手入れをすることでもう一度命を吹き込む」。これも日本の文化の一つの良さだと思います。 文化というと茶道や華道などがありますが、実は暮らしのなかの文化が行事食には詰まっているんですよ。昔の人の息づかいが感じられて、ヒントもいっぱいちりばめられているんですね。

西島 いわば「暮らし道」ですね。

小宮 本当に!ぴったりのお言葉をくださいました。行事食をとおして旬の食材や季節の花を知ることで、小さな幸せを感じられる。ストレス社会といわれますが、向きあい方一つで、楽しみが目の前にあることに気づけるんですよね。


  おせち料理は二度おいしい

西島 ところで、何かこの時季に役立つアイデアなどを教えていただけますか?

小宮 おせち料理の転用レシピはいかがでしょうか。 紅白なますはラぺとして楽しむことができます。キャベツを千切りにして塩を振り10分ほどおいて固くしぼります。それを紅白なますに和えるだけです。洋風な感じにするなら、レーズンを加えるのもおすすめです。オリーブオイルを入れて塩コショウをすると立派な洋のサラダになります。 黒豆も天ぷらにするとまたちがった感じでおいしいですよ。汁気を切って、ちょっと粉打ちをしてから天ぷら粉にくぐらせてかき揚げのように揚げます。「失敗しそうで心配」という方は、かき揚げをつくる便利なシートが売られていますので、その上に乗せてから油のなかにスルっと入れるとつくりやすいですよ。

西島 ありがとうございます。伝統食と聞くと堅苦しく考えがちですが、工夫次第でさらに食の楽しみがひろがりますね。


  生協はお台所の強い味方

西島 最後に生協について、小宮さんの活動と関連してお感じになっていることなどはありますか?

小宮 生協の店舗には普段からよくお買物に行っていまして、旬を取り入れた品ぞろえをされているのがうれしいなと感じます。たとえば端午の節句には菖蒲の葉を扱っておられたり、いまの季節だと葉付き・土付きの大根が並んでいたり。おいしくて日持ちもよく、冬の味として欠かせない「大根の炊いたん」に重宝しています。ポップなどで正しい情報を発信されているのも、生協さんらしくてすばらしいなと思います。 また、魚売り場の方に「どうやったら一番おいしく食べられますか?」と質問することも多いんですよ。自信とこだわりをもっておられるからこそ、親切丁寧に教えていただけます。 旬のおいしい食材に出会えたり、おいしい食べ方を教わったり。小さな幸せをいただいています。

西島 そんなお気持ちでご利用いただけているのですね。ありがとうございます。これからも、生協として日本の食文化を伝える一端を担っていけるよう励んでまいります。本日はありがとうございました。


写真撮影・豆塚 猛


プロフィール:小宮 理実 (こみや・りみ)氏

料理研究家・一般社団法人行事食協会 代表理事
京都室町の商家で生まれ育つ。昔ながらの知恵が息づく、行事食やおばんざいなどの食文化を伝える。テレビ・ラジオ・雑誌など多方面で活躍中で、いまの時代に合った取り入れやすいレシピが人気。2007年からはじめた会員制料理教室は、コロナ禍を機に京の行事食オンライン講座へと生まれ変わり、現在は全国の受講生とオンラインでつながり、食文化の情報発信を行う。企業・食品会社へ商品のアドバイスや味の見直し業務など開発業務も担当。子どもたちに本物の食を伝える食育活動にも力を注いでいる。
著書に『福を呼ぶ 京都 食と暮らし暦』(青幻舎)、『忙しい人でもおいしく作れる京のおばんざい四季の味』(家の光協会)