「京都の生協」No.45 2002年4月発行 この号の目次・表紙

BSE問題やつぎつぎ起こる食品問題、法体系の抜本改正と整備、
食の安全のための行政機関の設置などが早急に求められる


 昨年以来のBSE(狂牛病)の発生と、その後の経過をみるとき、予防的な措置や情報公開、原因追跡が可能なシステムの確立など、国民の健康確保の視点からの抜本的な制度整備が早急に求められている。
 今回の雪印食品の問題、牛肉、豚肉、鶏肉などの表示と実際、JAS法にかかわる問題など消費者も生産者も大きな不安に立たされている。4月2日発表された「BSE問題に関する調査検討委員会報告」(農水大臣、厚生労働大臣の諮問機関委員会として2001年11月発足)は注目できる内容となっている。
 今後、食品の安全問題に対処する総合的な法改正、「国民の健康」や「食品の安全性の確保」を目的とした行政機関の創設、運用過程への消費者参加、情報公開の制度化が必要である。JAS法などの表示基準や法的拘束力のあり方についても検討されることが求められている。


講演する神山弁護士
●法改正に向けて学習会開く
 1月25日、ハートピア京都で、「京のこだわり たべる たいせつ | こんな食品衛生法があったら」をテーマに、食品衛生法改正に向けての学習会を開催した。
 講師には神山美智子氏(弁護士)を迎え、「食の安全のために―わたしの提案」と題して講演をいただいた。
 講演では「今起きている食の不安については、1947年に作られた古い食品衛生法によるところが大きい。行政の縦割り構造がもたらしたともいえる」と指摘。狂牛病(BSE)、カネミ油症事件、卵のサルモネラ汚染などを事例に、「今の行政のやり方では食の安全は守れない。もっと総合的、横断的に規制や連携が必要である」とし、食品衛生法改正の視点として、「法の目的に食品の安全性確保と人の健康保護を明確にすること」「食べる側・消費者の意見が行政に反映できる制度」「消費者の権利確保の必要性」などを強調された食品の安全は、「農場から食卓」まで、トータルで視野にいれた施策が大切」。狂牛病(BSE)など一連の食品事故の背景には、日本の食品衛生にかかわる法律、社会システムの不備があることを指摘された。
 食の安全推進委員会の小峰耕二委員長は「食の安全を確保するために―こんな食品衛生法があったら」をテーマに報告。「1999年からとりくんできた食品衛生法の改正を求める請願が採択された」「日本生協連から提案されている食品衛生法改正試案の3つの視点を学習し、国や自治体にひろく働きかけ、法改正実現にむけてとりくんでいこう」と提案した。

【求める法改正の視点1】  「安全」と「健康」は私たちみんなの願いです

 食品の安全性と国民の健康について法目的に明記し、目的の変更に伴って法の規定を見直すこと。

 現在の食品衛生法は、「公衆衛生」の立場から粗悪品や不衛生な食品を規制することを主な目的としています。「衛生」それ自体は、食の安全に関して重要な側面です。しかし、食品に関して消費者が求めているのは、「衛生」という面に限られたものではなく、今日的な食品の安全性の問題にも対応できるトータルな法制度であり社会的システムづくりです。
 アメリカでは、連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA)では、「safe(安全)という用語は、食品添加物の規定で使用する時には、ヒトの健康に関連する」と明記している。

【求める法改正の視点2】  〜消費者も食品の安全を守る仲間に!〜

 食品を摂取する当事者として国民の位置付けを明確にし、参加の途を確保するとともに情報の公開を進めること

 現在の食品衛生法では、法によって実現される利益は「公衆衛生」であり、国民の健康はその結果としてもたらされるものにすぎないとされています。
 現在の食品をめぐる問題に適切に対処していくためには、各食品にどのようなリスクがあるかを科学的・客観的に判断し、それを踏まえてどのような政策をとっていくのか、ということが必要です。そして、それが有効に機能していくためには、必要な情報の公開、審議プロセスの透明性、そして当事者である消費者の参加が不可欠です。
 EUでは2002年1月、食品の安全対策を強化するために「ヨーロッパ食品安全庁」を創設し、食品の安全確保のためのシステムをEU全域で適用するための法律を理事会で承認しました。この食品安全庁の創設によって、業界や行政から独立した機関で、EU内の食品の安全問題を一元的に扱い、生産・加工・輸入品の販売までを総合的に監視できる体制が整えられる予定。

【求める法改正の視点3】  ルールははっきり、そしてみんなのものに!

 規制の枠組みを整備するとともに、ルールの明確化によって法運用の透明性を高めること

 現在の食品衛生法は戦後すぐに成立したものであり、その後に出てきた食に関する問題についての規定があいまいだったり、不十分だったりすることが多くあります。例えば、「既存の添加物に関して審査や基準なしに使用が認められている」ということや「農薬・動物用医薬品に関する規格の設定が任意である」といった点です。これらの構造を改め、食品の安全性に関するルールを明確にし、社会全体の約束事としてきちんと誰にでもわかるようにしていくことが必要です。


●食の安全に関する基本法、新行政組織についての5つの要求●

(1)目的に「国民の健康」や「食品の安全性」を最優先に位置づけるとともに、生産振興に携わる行政組織から独立・分離させること
 基本法や新しい行政組織には、その目的に「国民の健康」や「食品の安全性」の確保、「消費者の参加」を最優先に位置づけることが必要です。また、新行政組織は、生産振興に携わる行政組織から独立・分離することとあわせ、関係行政機関に対する調査権や勧告権等を持つようにすることを求めます。目的を達成するために行政の責務を明文化することを求めます。
 食品衛生法についても、基本法制度や新行政組織の設置と一体のものとして抜本改正を求めます。

(2)リスクアナリシス(リスク分析)を法に明示し、特に消費者参加のリスクコミュニケーションを確立すること

 新組織や既存組織が所轄することとなる食品安全に関する各法において、コーデックス委員会が既に各国に採用を勧告しているリスクアナリシス(リスク分析)に基づく制度、消費者参加のリスクコミュニケーションを法定化することを求めます。

(3)食品の表示制度について消費者の権利かの観点から、総合的・一元的に見直すこと
 食品の表示は、消費者にとって安全性の確保、健康の維持、品質の確認、選択の保障という、消費者の権利に関する重要な意味をもっている。現在の各種表示制度を消費者の立場を最優先して一元的に整備すること、パッケージへの表示にとどまらず消費者への情報提供のあり方についても総合的な整備をすることを求めます。

(4)食品全般のトレーサビリティシステムを整備すること
 「農場から食卓まで」の視点で、トレーサビリティの考え方に基づくシステムを、牛や畜産だけでなく他の農水産物についても、農薬・動物用医薬品・飼料の使用、食品への残留基準の観点を基本に整備していくことを求めます。

(5)新しい行政組織等の検討に、消費者の参加を保障すること
  新しい行政組織等の検討は、消費者の参加が保障された第三者機関を設置し、透明な議論のなかで行われることを求めます。


「食の安全」を実現するために 京都府生協連の方針

(1)食品の安全を守る法整備と行政機関の設置を要求します

  • 食品衛生法改正を求める運動のなかで強調してきた「国民の健康をまもる」「消費者の参加」という視点のもとに新しい行政機関の設置や食品の安全をまもる基本法の制定を積極的に求めます。
  • 食品衛生法改正については12月7日に国会で「請願」が採択されたのをうけて、どのような法律が必要とされているのか、学習と検討をすすめます。
  • 日本生協連とともに、国会へはたらきかけをすすめます。
  • 府内自治体の意見書採択をもとめる活動をすすめます。

(2)京都府の食品安全行政の充実を求めます

(3)「たべる、たいせつ」運動を進めます

  • 「たべる、たいせつ」運動は (1)食の安全を守るとりくみ、 (2)食文化を守るとりくみ、 (3)健康を守るとりくみ、 (4)生協の利用をすすめるとりくみ の4つの柱を会員生協とともにすすめます。

(4)京都府生協連「食の安全」推進委員会は、活動の具体化と調整・推進をおこないます。


(「法改正の視点」「要求項目」などは日本生協連の諸資料にもとづいて作成した)

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