「京都の生協」No.45 2002年4月発行 この号の目次・表紙

ネットワークナウ 座談会
産直を、人・社会・文化の交流の場に
安全・信頼の価値観を創造する運動に

21世紀 にはばたく京都の生協
 生協のお店や共同購入では最近、組合員と職員の間で「生協の商品、ほんとに大丈夫?」「大丈夫ですよ」「ほんとに?ほんとに大丈夫?」という会話が飛び交っている。言うまでもなく食品の偽装表示問題をめぐる会話だ。食品の安全・安心・信頼を築きあげてきた産直活動が今、改めて注目されその運動が評価されている。そこで今回は、生協の産直活動を支える生産者のみなさんとともに、産直の意義や可能性について考えてみた。

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「生産者を助けよう」との取り組みには涙が出た
末川  国内初の口蹄疫の感染が2000年に、同じくBSE患牛が2001年9月に発見され、食品の偽装表示も相次いで発覚するなど、いま、「食」をめぐる問題が連鎖的・多発的に起こっています。いずれの問題も行政の対応のおくれが根底にあり、消費者、生産者、流通・加工・販売業者が力を合わせて取り組まないと解決できない問題ですが、取り組みしだいではプラスに転じるきっかけになるのではないかと思っています。
 生協は、「安心・安全なものを食べたい」という消費者の願いを受けて、独自の農薬指針の策定、「食の安全」を求める署名活動などを進めてきました。また、生産者のみなさんはそれを「消費者のわがまま」と言わずに一緒に取り組むことを選んでくださいました。このめぐり合いの成果が「産直」です。
 きょうは産直を支えてくださっている生産者のみなさんと一緒に、産直のこれまでを振り返り、今後のあり方についても考えてみたいと思います。まず自己紹介もかねて、最近気になることなどからお願いします。
和田  私はカキ養殖を約30年、手がけています。おいしい魚を安心して食べてもらいたい、その一念で働いていますので、BSEが問題になったときは、魚の飼料に肉骨粉が入っていないかと、思わず配合を調べました。20センチ足らずの小さな魚が食べるものですが、その魚が放流されて、やがて人間の口に入るのですから、他人事ではありません。それと、単に泳いでいる魚を釣るのではなく、海を資源としてとらえて、つくり育てる漁業が大事だと思っています。
酒部  京都市の南隣、宇治川と木津川に挟まれた久御山町で9人の仲間と「御牧野菜研究会」をつくり、トマトをはじめとした野菜を育てています。
  偽装表示問題で思ったのは、売らんがための「有機・無農薬」「○○農法」「○○産」といった「見出し」や「ブランド」が一人歩きしているのではないかということです。
 この間テレビで、減農薬のひとつの方法として注目されている方法を名称にした「マリーゴールド(花)」と呼ぶ会がすすめている消費者活動と神奈川のキャベツ農家の取り組みを紹介していました。そこでは、町から消費者の女性たちがやって来て、除草その他の農作業を手伝い、交流している。彼女たちは販売も手伝うのですが、キャベツが育つ過程を自分の目で見ているから、消費者に「こんなふうに育てられたんですよ」 と説明しながら配達しているんですね。しかも、つくり方や味について自分たちの希望を出して、農家と一緒に取り組んでいる。
 私はあの姿を見て、「ああ、懐かしいな」と思いました。あれは、まさに10数年前に取引を始めたころの生協と私たちの姿ですよ。生協の産直に参加し始めた頃は、交流に来られた組合員さんのお子さんが水路に落ちたり、ハウスのなかを走り回ったり、いつも大騒ぎでした。そういう交流を重ねるなかで、私たち生産者も鍛えられ、育てられてきたのだと思います。
 あるデパートでは食品に安全性を証明するカードを付けるそうですが、カードにデータを打ち込むのは人間ですから、単にカードのシステムだけでは完全ではない。人間は、じかに顔を合わせて、話し合うと、うそもつけないし、そう簡単には裏切れない。やっぱり安全性の最後の決め手は人と人のつながりだと思うのですが、そういう、生協が本来持っていた良さが、最近だんだん失われて、スーパー化しているのではないかと、少し心配しています。
鎌谷  鳥取で畜産をしています。鳥取の生産者と京都生協の産直は、牛乳が30年、牛肉は21年という歴史があります。この歴史を踏まえて、生協組合員さんと一緒に「新産直牛」をつくろうとしていた矢先に起きたのがBSE問題でした。嵐のような騒ぎのなかで、京都の生協のみなさんが「こんなときこそ産地を助けよう」と、決起集会やキャンペーンに取り組んでくださって、涙が出るほどありがたかった。「産直で助かった!産直に救われた」と、あらためてその重みを感じています。
 「新産直牛」は、「健康・エコロジー・国産・安全・低価格」をコンセプトに、休耕田の有効利用で自給飼料を栽培し、牛糞は堆肥にして畑に戻し、その地域で生まれてお産をした乳牛を肉牛にすることをめざした循環型畜産です。生協の鳥取・大山サポーターさんには、飼料や育て方など生産の現場に踏み込んでいただくために、「少なくとも3年間はかかわってください」とお願いしていますし、サポーターさんに専門家並みの知識を持ってもらうために、私たち生産者はすべての情報を公開します。この「新産直牛」を通して、真に生産者と消費者が手をつなぐ産直システムを構築したいし、地産地消と組み合わせれば、その展望は開けると思っています。

産直は世代を超えた体験の場
末川  BSE患牛が発見された後、鳥取の肉牛生産者が京都の生協に来られて、「私が生産した肉をどなたが食べてくださっているのかわかっていて、こんなによかったと思ったことはない。私たちは消費者のみなさんに直接、『私の肉は安全だ』と説明することができる。一般市場に出荷している生産者は、それを伝えようがない」とおっしゃいました。思えば私たちは、京都生協が1983年に産直3原則を策定して以来、農業や漁業の現場の体験交流を続けてきました。その積み重ねがあればこその言葉だと思うのですが。
和田  私たちの漁協では、魚のおいしさを知ってほしいし、できれば後継者も確保したいと思って、定置網体験をおこなっています。実際、漁師に転身した脱サラ組の若い人も出てきています。地元の子どもたちも学校の「海の学習」で、朝早くから船に乗ります。そこで舌に吸いつくような新鮮なイカを食べたりすると、漁師に「おっちゃんらはこんなにおいしい魚が食べられて、ええなあ」と言うそうです。この体験が漁業への関心につながっているようで、うれしいですね。
酒部  実は私のところにも中学生の女の子が来てね。この子は生協組合員の二世で、共同購入の配達をしているお兄さんから私のところを教えてもらったと言うんですよ(笑)。それで、トマトづくりを手伝ってくれて、いまも「今年は受験で行けませんが…」と手紙をくれます。私のトマトを食べてくれているんだと思うと、うれしいですよ。それに、この女の子の後ろにはお母さんもいて、お母さんも私のことを信頼してくれているわけですからね。
鎌谷  鳥取の牧場へも来ましたよ、京都の中学生4人組が「アルバイトさせてくれ」と(笑)。聞くと、幼い頃に親に連れられ、産直交流のキャンプに来て、楽しかったと言うんですね。これぞまさしく世代を超えたお付き合いです。次の世代の子どもだちにも引き継いでもらえる産直の仕組みをつくっていきたいですね。
酒部  やっぱり現場の空気にふれてもらうことが大切ですね。私だって、ハウスに入っただけではトマトの調子はわからない。余分な実を摘果したり、脇芽を取ったり直に葉、花、実、木に触れてトマトの健康も気持ちも初めてわかります。消費者のみなさんにも何度も来てもらって、野菜だけではなく私ら自身も見てその時、何かお互いに通じるもの、得るものがあればうれしいですね。
和田  体験でもうひとつうれしいのは、包丁教室です。単身赴任や奥さんに先立たれた男性、魚にさわったことがないという若い奥さんたちに、魚のさばき方から食べ方までお教えするのですが、時には割烹料理のプロも参加されて、「こんな料理の仕方があったのか」と驚かれる。地元ならではの暮らしの知恵をお話しするだけなのに、プロの料理人にも感謝されて、講師の漁協婦人部の仲間も大喜びです。
末川  実は私もずっと以前、包丁教室で教えていただきました。息子が結婚したときには、私が息子とそのパートナーに教えて、いまでは「私、食べる人」になっています(笑)。

作物をつくる体験の場が大切
酒部  でも、組合員二世の子どもたちの話は、私のところだけではなかったんですね。そう思うと、人と人との交流って大事ですね。私の1歳の孫は、納豆でもなんでも好き嫌いせず食べるのですが、なぜかイチゴはあまり食べない。ところが、この子の親が食べると、つられてパクッと食べるんですね。親が何をどう食べて、周囲のおとながどう生きているか、子どもはそれを見て育つのだと思います。トマトは、双葉から本葉3、4枚になるまでは親の免疫力があるけれど、その後は土の力が大事で、定植した木が活着して、7日目に着果すれば成功です。子育てでいえば、土は「家庭環境」、定植と活着は「自立」で、このときにちゃんと育つかどうかでトマトの将来は決まってしまう。子どもも同じじゃないでしょうかね。
鎌谷  その大切な時期に何を体験させるかですね。いまの子どもたちは私の世代ほど親のことを考えていませんよね。それだけ子どもの置かれている状況が厳しいのだと思う。だとしたら、たとえば小学生は自分たちで作物をつくり、それを売って、出来が悪いと売れないことや、売り物にするにはきちんと管理しなければならないことを、体験を通じて学べるようにする。中学生には四反ぐらいの田んぼを与えて、自分たちが食べる米をつくらせてみる。その体験を通して、計算する力や物事を論理的に考える力、協力することの大切さなどを学べば、単なる「知識」ではない、「生きる力としての知恵」が身につくのではないかと思います。
和田  私の地域では、5年生になるとカキの養殖体験の時間があって、種ガキをロープのまま海につける段階から、寒いなかで収穫して、殻付きのまま、村のなかを一軒一軒売りに行く段階までやります。仕事の最初から最後まで丸ごと体験するのが好評で、私の孫も「おもしろかった」と言っています(笑)。それに、「海と山はつながっている。山の生態系が壊れれば、海も荒れる」ということも、体験を通して子どもたちに知ってほしい。今度開く「漁民の森」の植樹祭には、子どもたちにも参加を呼びかけようと思っています。
鎌谷  それと、農村には農村の文化がある。たとえば村祭りや神事といったさまざまな行事は、農業というひとりではできない仕事を力を合わせてこなしていくための、先人の知恵です。産直を通じて、この文化も一緒に楽しんでほしい。そして、生産者と消費者の関係が親戚付き合いのようになれば、とてもおもしろいと思います。
末川  作業の体験は子どもたちの成長にも、おとなの成長にも大きな役割を果たすし、産直は「体験」を提供する場でもあったんですね。

安全は「うそがつけない生産者と消費者の関係」から
末川  いままでのお話のなかに、産直の新たな可能性がたくさん提示されていたように思いますが、いかがでしょうか。
鎌谷  先ほどお話しした「新産直牛」は、野菜やおからなど食物残渣を飼料に利用し、その野菜の堆肥には牛糞を使うという、資源の循環型農業ですし、生協の安全な野菜の残渣やおからを使うという意味では産直の新しいあり方を示唆していると思います。つまり、生産者だけではなく消費者も深くかかわれるし、一緒に取り組みことで、お互いに後に引けなくなる。そういう関係を大事にしたいと思いますね。
 それと、もう少し欲を言えば、組合員さん一人ひとりのレベルの交流をもっと豊かにしたい。私たちは店頭に立つことから始まって、出前バーベキュー、ホームスティの受け入れなどに取り組んできました。最近ではイベントに毎月出かけるようになって、生協のホームページに「○○日に行きます」と書き込むと、「会いに行きます」と返事が載ります。こういう関係が、実はとても大事ではないのか。酒部さんがおっしゃったように、やっぱり「人」ではないのか。食品の安全性だって、書類の上のトレーサビリティ(追跡システム)ではなく、人を通じたトレーサビリティがいちばん確かじゃないか。それができるのが産直ではないのか。そんなことを思っています。
酒部

 そうそう。やっぱり人が来ると、私ら生産者はうそがつけないし、「カツ」が入るんだよね(笑)。ホームページで交流するのもいいけど、それでは表現できないものがある。空気とか、風とか、匂いとか。
 それに、マスコミの情報にも揺るがない生産者と消費者の関係を、ぜひ産直で築きたいですね。たとえば以前は国産牛がもてはやされていたのに、BSEの嵐が吹くと一転して輸入牛が人気でしょ。国産牛は後ずさりされる(笑)。あまりに極端な反応を見ていると、これではいけないと思いますね。

鎌谷  その点で、私は最終的には、牛の生産コストにかかわるすべての認識を、生協組合員さんとの間で共有できるような関係ができないものかなと思っています。あくまでも生産者が主体性を失ってはいけないという前提での話ですが。
 それと、偽装表示問題では、小さな産地には欠品がつきものですから、そのときのルールや対応を考えておくことは欠かせませんね。生産者は、自分の目の届く範囲でつくることが大事ですから。
和田  それはカキも一緒ですね。規模を大きくすると、目も手も行き届かなくなります。
酒部  同感です。政府は「合理化・大規模化」を言うけれど、質に責任を持とうとすれば、それでは限界がありますよ。

「生産と消費の協同」は生協だからこそできる
末川  じかに出会って、体験して、話し合う。そういう機会を積み重ねるなかで、消費者は生産者のみなさんの「つくり、育てる喜び」やご苦労を知りました。それはまた、環境保全型農業といった考え方を広げる力にもなったのではないか。これも産直の大きな成果だと思います。
鎌谷  産直は、高度成長期を境に断ち切られてしまった生産者と消費者を、再び結びつけたんですね。私たちの「新産直牛」への挑戦も、水田の保全など農業そのものを守る運動に広がる可能性を持っていると思います。
末川  その意味では産直は、持続可能な生産と消費のあり方を示すものだと思いますし、私個人としては、できれば「生産と消費の協同」のレベルにまで到達したいと考えています。そう考えると、生協もまた転機に立っていて、たとえば都会で、地域の商工業者や福祉分野のみなさんとの協同をどう築くのかという課題があります。まだこれからの実践と積み重ねがなければなりませんが、京都生協の二条駅店出店に際しては地域の人たちと一緒に「まちづくりを考える会」をつくり、生協の店舗づくりに地域の人たちも参加してもらうという新しいかたちも芽生えました。
 きょうは産直の原点を振り返りつつ、今後を考えることができて、ほうとうによかったと思います。
酒部  「生産と消費の協同」は生協だからこそできるのだと思います。実績に磨きをかけて、新しい発展をめざすべく、これからもお互いにがんばっていきましょうや(笑)。


白沙村荘で

出席者プロフィール
末川千穂子
(すえかわ・ちほこ)
1986年5月
京都生協理事に就任
1991年5月
京都生協副理事長に就任
1996年5月
京都生協理事長に就任
現在)
京都府生協連副会長理事
鎌谷一也
(かまたに・かずや)
1997年5月
鳥取県畜産農協常務就任
1999年4月
同 農協専務理事に就任
酒部一成
(さかべ・かずなり)
1967年
医療機器メーカー入社
1978年5月
父病気の為就農
1988年1月
御牧野菜研究会発足
1996年6月
長男、和典さん後継就農
1996年7月
農業委員(現在)
和田智恵子
(わだ・ちえこ)
1983年4月
湊漁協婦人部長に就任
1987年4月
京都府漁婦連副委員長に就任
1993年4月
京都府漁婦連委員長に就任(現在)
1998年10月
女性漁業士に認定

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京都府生活協同組合連合会連合会