「京都の生協」No.46 2002年8月発行 この号の目次・表紙

ネットワークナウ 座談会
豊かな自然環境、多様な命との連帯
時代が変わり、暮らしの風景が変わっても、ずっと大切にしたい

21世紀 にはばたく京都の生協
 池坊次期家元・池坊由紀さんはその自著『花の季(とき)』のなかで、「物言わぬ植物の、懸命にその環境の中で生き延びていこうとする底力のようなものを感じる」と書きのべている。嵐の後、か細い体を空に向かって起こすコスモス、街路のわずかな土に咲くたんぽぽ。「花をいける」とは、懸命に生きる「命」と向き合い、慈しむこと。その視点は、どこか生協の願いと通底している。


変わっていくことと 変わらないこと
小林  はじめまして。もう10年ぐらい前になりますか、若い女性が池坊の次期家元に決まったというニュースを耳にして、同じ京都に住む女性として、たいへん驚きましたし、とてもうれしく思ったのをおぼえています。きょうは由紀さんとお会いできるのをとても楽しみにまいりました。
池坊  ありがとうございます。最初に少し自己紹介をいたしますと、私は次期家元であり、また一主婦、一母親です(笑)。
 日本人として京都に生まれ、いけばなという最も日本的な伝統文化のなかで生きていけることを、私はとても幸せだと思っています。西洋化した暮らしのなかで、日本の文化が忘れられがちな時に次期家元になったということは、日本をとことん見つめ直す役目を与えられたわけですから、やりがいの大きな立場だと思います。
変わらない思い
小林  京都生活協同組合は創立38年で、池坊の歴史に比べると生まれたばかりのようですが、数百人の組合員から始まり、いまでは47万人の組織にまで成長しました。その間、暮らし方は大きく変化しましたが、創立当初の、お互いに助け合い、支えあうという精神は変わらずに大切にしたいと思っています。
池坊  それはいけばなの世界にもいえることですね。華道も、花材やライフスタイルの変化に適応しながら、花を私たちと同じように生きている命としてとらえ、慈しみ、自分の心を花に託して表現しようとする思いは変わりません。だからこそ、いつの世も人びとの心を打つのだと思います。時代に応じて変わらなければならない部分と、時代が変わっても譲れない精神と、きっと、その両方が必要なのでしょうね。


池坊学園祇園祭協賛花展「花きらきら」においての作品(次期家元:池坊由紀)

たべる大切  食生活の真の豊かさを考える
小林  由紀さんはエッセイ集『秘すれば花』のなかで、「暮らしの快適さは、四季をなくしてしまった」とお書きになっていますね。
池坊  コスモスも桔梗も、昔は自然の風を受け、太陽に向かって咲こうとして、適度な婉曲を持ち、生きているものの姿勢をあらわしていました。でも、いまは大量栽培・大量輸送・大量販売ですから、輸送しやすい画一的な形の、味気ない花材が多くなっています。花を愛で、命を慈しむことと、経済を共存させていくことの難しさを感じます。
小林  野菜も画一的な味や形になりました。生協では産直トマトを扱っていますが、やはり本来の時期に出荷されたトマトは、「昔のトマトの味がする」と評判です。
池坊  トマトはもともとアンデス高地が原産地ですから、雨の少ない地域でたくましく育つことで、栄養を凝縮させるんですね。もちろん、昔は年中食べられる野菜ではありませんでした。でも、いまの消費者はすべての野菜が年中そろうことが幸せなのだと思いがちですね。お弁当をつくっていると、ついつい彩りよくいろいろなものを詰めようとして、私自身つくづくわがままだと思います(笑)。それが自然なことなのかどうか、もう一度問い直して、旬のおいしさを味わいたいと思います。
 それに昔は、身近に作物がつくられ、食べ物のできる過程が一般の人の目に見えていました。現代人は忙しく、食材もほとんど外で調達し、過程が見えなくなっています。
食べ物ができる過程を知る
小林  生産者が近くにいて、消費者もその姿を知っていることが大切ですね。京都の生協はJAや漁協など生産者のみなさんと協同して、府内でとれたものを府内で食べる「府内産直」に取り組んできました。
 たとえば京都生協の「かもめBOX」は、舞鶴港をはじめ、府内を中心に水揚げされた魚が、翌日の共同購入で組合員に届くシステムです。海から遠い京都市でも新鮮なお魚を食べたいという声で始まったのですが、京都の人は年配の方でも魚をさばけない人が多い。そこで舞鶴で漁業の現場を見せてもらった後、漁協の女性を講師に包丁教室を開いて、さばき方を教えてもらいました。実は私もその修了生で、ちゃんとさばけるようになりました(笑)。
池坊  食べ方のノウハウを教えていただけるのはありがたいですね(笑)。野菜にしても、あく抜きが必要だったりして、食べようと思うとけっこう手がかかりますから。それに、生産者の方との交流も大切だと思います。食べ物ができる過程を知らないと、人間は自分の都合だけで考えて、お金さえ払えば何でも手に入ると思いがちですから。その過程を子どもたちにも見せたいですね。
食品の安全と食生活の豊かさ
小林  じつは生協では、お正月のしめ縄も産直なんです。組合員は子どもたちを連れて農家へ行き、田植えや稲刈りのお手伝いをして、わらはしめ縄にしてもらい、お米とともに共同購入で扱い、最後はどんど焼きを生産者の方と一緒に楽しみます。年間を通じて生産の現場を応援することで、組合員も子どもたちも物心ともに豊かな恵みを与えられていると思いますね。
 でも、このところの食品偽装表示問題では生協も表示と違ったものを提供し、信頼を裏切ることになってしまいました。生協自身の問題点をきちんと解明するのはもちろんですが、この問題は食品の安全にかかわる社会のシステムそのものを正さないかぎり解決しません。
 生協は、雪印の食中毒事件の前から、食品衛生法を真に消費者と生産者に顔を向けた法律に改正するための運動を展開し、他の分野のみなさんのご協力もいただいて、京都府で約46万、全国で約1400万の署名を集めました。その後、BSE(牛海綿状脳症)や偽装表示問題が起こり、食の安全確保のための社会システムづくりは世の中の流れになってきたと思います。
池坊  消費者と向き合うシステムづくりは私も必要だと思いますし、それを促進するためには一人ひとりが高い意識を持って日常の行動のなかで考えていかなければと思います。料亭のお料理も大切ですが、家庭で毎日食べるものが充実していることこそ食生活の豊かさであり、高価ではなく、ふつうに売られ食べられるものだからこそ、安全で信頼できるものであってほしいですね。

環境問題 地球規模で考え、 行動は足元から
池坊  いけばなは、限りある植物を一度切って、異なった表現でその命を生かす芸術ですから、いかに少ない花で多くのことを表現するかに心をくだいてきました。人間と自然の距離が近く、自然のなかに抱かれ、四季折々変わる山並みや植物をながめていたからこそ、人はものいわぬ一本の草花が訴えるものを感じとり、それによって自分の命も他者の命も慈しんでいたのではないかと思います。
 でも、現代人はお金で多くのことを解決してきたために、自然との向き合い方や暮らし方が雑になってはいないでしょうか。人間は、地球上のたくさんの動植物の一員にすぎませんし、命は連鎖していて、土や水が汚れたら次の世代は生きていくことができないと思います。そういう視点から、日常の一つひとつの行動をよく考えて、たとえば環境負荷の少ない製品を買ったり、トレーの回収に協力したりすることが大切だと思いますね。
小林  ほんとうに、このままいくと安全な食料をつくりつづけられるのだろうかと思います。しかも、日本ではモノがあふれているのに、途上国には飢えた人びとがいて、その格差はとても大きい。私たちが便利さを享受している背景には途上国の資源をたくさん使っている問題があるわけですから、由紀さんがおっしゃったように、地球規模で考えて、行動は日常の生活のレベルで取り組むことが大切だと思います。
 生協も、いまほど環境対策が進んでいなかった十数年前から、できることから始めようと、牛乳パックの回収に取り組みました。買い物袋の有料制は、始めるときは「組合員さんの利用が減るのではないか」と議論百出でしたが、現在はほぼ定着し、購入された分のお金は資源再生商品の開発や生産に充てています。
 また、残った食材を利用した循環型農業も、酪農家のみなさんと一緒に取り組みがはじまりました。
 いずれにせよ、一人ひとりが環境問題に参加できる仕組みづくりが大切で、それによって持続可能な社会の構築を促していきたいと思います。

助け合い、支え合う 協同の心で、生き生き暮らせる社会を
小林  自分の子どもと同じように、世界中の子どもたちも幸せになってほしい。そんな願いから、京都生協はユニセフ募金に取り組んでいますが、私たちの募金が何に使われ、現地の人びとの暮らしがどう変化したかがわかるように、支援先をラオスに指定し、一過性のお金だけではなく、特に女性の自立に役立つ職業教育の支援などに取り組んでいます。
池坊  女性や子どもたちに、自分で生きていく術を教え、自立をサポートしていくことはとても大切だと思います。でも、マグマの塊みたいなエネルギーをそぎ落とされた日本の子どもたちも、とても気になりますね。
小林

 ユニセフ親善大使の黒柳徹子さんがおっしゃるには、途上国の子どもたちはとても貧しいけれど、その目は輝いているそうです。日本の子どもは、食べ物もファミコンもあるけれど、勉強に追い立てられて、はたして幸せなのかしら? その意味では、ラオスの女性や子どもたちから逆に私たちが教わることも大きいですね。

生協は心強い生活応援団 
池坊  援助活動は、単に相手に与えるだけではなく、援助する側が与えられるものも大きいのですね。ところで、生協はヘルパー事業もなさっているとか。
小林  現在はヘルパー事業もおこなっていますが、それと並行して約15年前から「くらしの助け合いの会」という家事援助の有償ボランティア活動に取り組んでいます。この会のサービスを利用なさる方の中心は高齢者ですが、最近は、意外に子育て中の若いお母さんも多くて、子育てを社会全体で支える態勢の不十分さを実感します。子育て環境の整備は男女共同参画社会の前提ですから、生協は助け合いの活動を続けながら、同時にこの面でも努力しなければと思っています。
池坊  じつは東京に住む私の義母も生協のボランティアに登録しているのですが、この2年間、依頼がなくて残念がっています(笑)。それはともかく、私もふくめて子育て中のお母さんは、子どもという自分のエネルギーを傾ける存在がいることじたいは幸せなのですが、相談相手もなく、時間に追い立てられて、その幸せを実感しにくいのだと思います。ぜひ、安心して産み育てられるシステムが整うといいですね。
 きょうは、食に限らず多岐にわたって活動なさっている生協のお話をうかがって、心強い生活応援団だなと思いました。これからも常に消費者と生産者に真摯なまなざしを向けて、活動をつづけていただきたいと思います。
小林  ありがとうございます。女性も男性も、若者も高齢者も障害者も、誰もが参加できる生協へと自己変革し、協同の力で暮らしやすい社会にしていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。



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