「京都の生協」No.47 2003年1月発行 この号の目次・表紙

ネットワークナウ 座談会
歴史に学び、歴史をきりひらく女性を育てたい
中世の女性たちをさぐり、次代をになう学生を育て、
現代のくらしと「協同」を考える

21世紀 にはばたく京都の生協
女性が生き生きと活動する組織は、活動分野がまちづくりであれ、環境問題であれ、例外なく元気だ。中世女性史研究者・田端泰子さんは「女性は軽労働しかできないから賃金も安くて当然という論があるが、中世の女性は重労働もこなし、労働における男女差は現代より小さかったようだ」と語る。自分の「意思」をたいせつに生きた「中世の女性像」もしだいに明らかになりつつあるいま、歴史をきりひらいてきた女性たちに学びたい。

京都府生活協同組合連合会副会長
(京都生協理事長)
 小林智子さん
京都橘女子大学教授・文学博士
女性歴史文化研究所初代所長

 田端泰子さん

小林  先生は京都生協の組合員でいらっしゃるとか…。
田端  とても古い組合員です(笑)。
小林  研究者としてお仕事をつづけられるうえで、生協もお手伝いできたでしょうか。
田端  子育てのころ、かさばるトイレットペーパーや重い粉せっけんなどをもってきてくださって、ありがたかったですね。ずいぶん助けられました。
小林  そう、おっしゃっていただけるとうれしいです(笑)。

男性のみの視点で描かれた歴史は不完全
小林  ところで中世の女性は、先生の社会的な視点にもとづいた研究によって、従来の「政略結婚をしいられた人たち」というイメージが塗りかえられ、ジェンダーという点でも非常に興味深い存在として浮かび上がっています。先生はなぜ、中世女性史を研究なさったのですか。
田端   大学時代の専攻は中世のムラの歴史でしたが、中世のムラは年配の男性が主導権を握っていて、土一揆の指導者として名前が残っているのも男性だけなんですね。でも私は、「女性はどうしていたのだろうか?」とずっと疑問を感じていました。さいわい、大学院を終えたのち、本学で教えることになり、「中世の人口の半分を占める女性の姿を明らかにしないと、歴史としても完全なものにならないだろう」と、女性史に取り組みはじめたわけです。
 いざ調べはじめると、中世の女性にかんする史料はけっこう残っているのですが、研究者の圧倒的多数は男性で、「世の中を動かすのは男だ」という視点で研究しているから、女性の姿が見えてこなかった。歴史を描く側の性(ジェンダー)が研究にもかなり反映しているのだと、実感しましたね。
 たとえば信長の妹・お市は政略結婚の代表のようにいわれますが、彼女は浅井家に入るときも出るときも織田の家臣団と一緒だったことが、最近わかってきました。これは結婚前からの家同士の合意で、女性の結婚は家としての重要な決定だったのです。このことからも、女性の役割は予想以上に大きかったのではないかと考えます。

中世の女性は「共同経営者」の先駆
小林  中世の女性は、夫とは別の姓を名乗り、自分の財産をもち、夫亡きあとは家長の役割もになっていたそうですね。
田端  ええ、古代から近世前半にかけて、じつは日本は夫婦別 姓でした。「源政子」ではなく「北条政子」、「足利富子」ではなく「日野富子」ですからね。当時は、婚姻のさい、実家から財産をもってきて、夫とともに家を「共同経営」していましたから、夫が亡くなっても、経験豊かな妻が家の経営を引き継げた。だから、後家になって大きな力をもてたんですね。このように女性の姿の解明がすすんだことで、当時の家にかんする研究も進展したのではないかと思います。
小林   NHKの番組「その時、歴史が動いた」での、「中世の女性も自分の意思を大切にして生きた」という先生のご指摘は、現代女性の大きな共感を呼んでいるようです。番組では北条政子、細川ガラシャ、春日局などについて解説なさいましたが、個人的にはどの女性がお好きですか(笑)。
田端  三人のなかでは、やはり政子ですね。
 彼女は東国の身分の低い家の出で、流人とはいえ身分の高い頼朝と、身分差をはねのけて結婚しました。毅然と自分の意思を表現できた彼女はすばらしいと思います。
 それに、夫亡きあと、みずから幕府を背負う身となったときは重臣合議制をとっています。専制君主的に執政するのではなく、多くの人たちの会議・合議をへたうえで決定を下すというスタイルをとったあたりに、非常に非凡なものを感じます。

大きな視点で歴史をみて、自分自身を磨いてほしい
小林   先生の講義をうけた学生が、「歴史を学ぶことで女性としての自分の生き方を考えることができた」と、のべています。学生気質は変化していますか。
田端

 学生の学力低下がいわれますが、若い人たちは一面とても素直で、こちらの接し方によってどんどん成長します。そういう信頼感は、以前とまったく変わりません。
 歴史は、必ずしも「だんだん、よくなってきた」という上昇の側面ばかりではなく、失ってきたものもたくさんありますから、学生はそれを見つけて、「昔は昔、いまは違う」で終わらせず、こんごの自分の獲得目標をしっかりしたものにしてほしいですね。たとえば男女の関係にしても、大昔は平等だったかもしれませんが、いまは不平等がある。それを「戦前よりは多少ましになったわ」ですませるのではなく、もっと大きな視点で歴史をみて、高い目標を設定し、自分自身を磨いてほしい。とくに女性史は、新しい発見に立ち会う場面 が多くて、「私もこれだけのことができた!」と達成感を味わえる分野ですから、楽しいですよ(笑)。


 京都橘女子大学の生協学生委員会では、大山乳業酪農体験インターンシップでファームステイに参加した学生と、奈良・治道トマト栽培農家の堀内さんの話を聞いた学生が中心になって、堀内さんを講師に「食べ物ひとつから広がる視野」と題した講演会を開催。これの成功に自信を深めた学生たちは、大学近くの農家とも連携して、食堂と購買部で「産直フェア」を開き、治道トマトや大山乳業でつくられるコープ牛乳、地元のナスなどを販売。トマトやナスを使ったレシピも生協職員と共同で作成するなど、その活動は広がりをみせている。
 さらに受験生の多くが泊まる大学近くのホテルに待機して、交通・キャンパス案内など役立ち情報を満載した冊子や手づくりお守りを渡し、さまざまな相談に乗る活動は、受験生や保護者にも好評だ。
 大学生協は、食堂の栄養価表示などの利便性を高めつつ、学生がみずからの感性を磨き、生き方や健康を考え、創意を発揮する、かっこうのフィールドとなっている。

大学は学問と生き方を学ぶ場生協が果 たしている役割
田端  大学生協の活動を経験した学生が地元へ帰ったら、さぞ頼もしい人になるでしょうね(笑)。
小林  自分たちで考えて、しかも楽しく活動なさっているのはすばらしいですね。「協同」は、その経験がないとなかなか実感できませんから。
田端  大学ではグループ発表の機会も与えますが、卒論に取り組みはじめるとそれも減りますので、生協が食を考えたり生産者と交流する場をつくってくださるのはありがたいですね。大学は、学問と同時に生き方を学ぶ場ですから、その意味でも生協は大きな役割を果 たしていると思います。
小林  そして卒業後も、職域や地域で生協の組合員となって、ずっと「協同」の輪のなかでくらしていただきたいですね。

日本の歴史のなかでつちかわれてきた「協同」の思想
小林  京都の女性たちを、先生はどう思われますか。
田端  自分の生活レベルをきちんとふまえて、あまり無理をしないで生活する人たちが多いですね。「京都人は冷たい」といわれますが、いざというときには親身になって助けてくれます。
 考えてみれば、昔の京都は町衆が「協同」で運営していましたし、「協同」は日本の歴史のなかでつちかわれてきた思想のひとつではないかと思います。いずれ学生たちも全国へ散っていきますが、京都でのくらしのなかで「手をつなぐこと」の意味を学び、「協同」の思想を深めてほしいですね。

ジェンダー・福祉・「個配」…
小林  生協は「くらしを協同の力で支える事業」ですから、職員も生活者の視点をもつことがもとめられます。ところが、実際に家事ができる男性職員はまだまだ少ないし(笑)、育児休暇や介護休暇をとる男性も非常に少ない。それに、組合員は圧倒的に女性が多いのに、正規職員に占める女性の割合は約一割にすぎません。女性職員の比率を高めるとともに、組合員組織も専業主婦だけでなく、働く女性や高齢者や男性も参加できる組織へと変化する必要があると考えています。
田端  高齢者支援は大事ですね。神戸に住む私の姉たちも高齢なので、震災のときにコープこうべが自宅まで「個配」してくださったのはほんとうに助かりました。京都でも最近、「個配」に取り組んでおられるそうですね。
小林

 全国的にも、働く女性がふえて「個配」が広がり、京都生協も6年前から「個配」サービスをはじめました。

田端  私はいまのところ共同購入を楽しんでいますが、班の人たちと料理法を教えあったり、現代版「井戸端会議」みたいで、なかなかいいものですよ(笑)。
小林  「個配」はくらしを支える大事な事業形態ですが、たしかに班にもすてがたい魅力がありますね。留守がちな私のくらしも班に支えられています(笑)。ですから、京都生協としては、班も「個配」も育てていけたらと思っています。

もっと安心で利用しやすい生協へ
小林  このさい、ぜひ生協へのご要望を。
田端  生協の土付大根はとてもおいしくて、保存もできて、じつは大ファンです(笑)。お豆腐も大好きです。
 ただ、ヨコオの鶏肉製品の不適正表示はショックでした。そこで思うのですが、各地の生産物はその地域に責任をもってもらうというシステムはどうでしょうか。たとえば鹿児島産の生産物は鹿児島県のみなさんが責任をもってチェックしてもらえれば、生協のネットワークを生かした信頼関係ができるのではと思います。「安心して食べたい」は消費者の共通 の願いですから、生協がそのモデルを実践していただければと思います。 
小林

 コープ商品の安全性は、「安全で安心できる確かなものを組合員に届けよう」という思いをメーカーや生産者の方と共有しないと実現できないということが、あらためてはっきりしました。生協としてこの問題にしっかり対応していきたいと考えています。

田端  それと、生協の舞鶴直送のお魚ももっと利用したいのですが、大きな魚一匹まるごとでは二の足をふんでしまいますので、その辺の工夫もお願いしたいですね。期待も込めて、ちょっと注文を申し上げました(笑)。
小林  生活スタイルの変化に対応し、その時代の「協同」をさぐっていきたいと考えています。こんごともどうかよろしくお願いいたします。




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京都府生活協同組合連合会連合会