「京都の生協」No.49 2003年8月発行 この号の目次・表紙

ネットワークナウ 対談
「たべる たいせつ」を消費者と共有する農業のあり方とは 女性のエンパワーメントが農業の可能性を拓く

21世紀 にはばたく京都の生協
各地の朝市や直売所がにぎわっている。まだ朝露を含んだ夏野菜、そば粉パンケーキやおからクッキー、味噌やトマトケチャップなど地元産品を使った加工品―。その土地の産物の特徴を知り尽くした女性たちと、彼女たちがつくる加工産品は、これからの農業に新しい可能性を呼び込むかもしれないと、期待大だ。おりしも、今年の国際協同組合デー第14回京都集会の女性交流会のテーマは「聞いて・見て・試食して」。各協同組合のグループによる「お気に入り商品」の試食で盛り上がった後、このほどJA京都女性組織協議会会長に就任された豊田勝代さんにお話を伺った。

 
京都府生活協同組合連合会副会長
(京都生協理事長)
 小林智子さん
  JA京都女性組織協議会会長
豊田 勝代さん


「一歩先のくらしの安心」と「生産者の誇り」
小林  きょうはお疲れさまでした。女性交流会は、今回、試食をメインに据えた企画でしたが、いかがでしたか。  
豊田  あのように食べ物を真ん中に置いて交流すると、会話が弾んで、思ったことが自然に話せますね。あっという間に時間が過ぎてしまいました。  
小林  それに、みなさん、きっちり召し上がっていましたね(笑)。みんな、食べるの大好きだから。
豊田  私ね、生協の組合員の方がおっしゃった「一歩先のくらしの安心」という言葉がとても印象に残りました。安価指向の強い昨今ですが、食というのは、人の命をずっとつないでいくものですから、目の前の値段の安さだけで判断してはだめですよね。
小林  本当にそうですよね。私は、JAの方が「トレーサビリティシステムを整備するのは、売るためではない」とおっしゃったのが印象的でした。無登録農薬問題などが明らかになったりして、生産者の方々はとても大変な状況にいらっしゃると思いますが、「だからこそ私たちは、農産物をつくる過程をきちんと明らかにすることで『つくる誇り』を持ちたい」とおっしゃったんです。すばらしいと思いました。栽培管理記録用紙を拝見すると、とても細かなチェック項目が並んでいて、大変なお仕事だと思いますが、よろしくお願いいたします。

「ほんもの」を使った商品開発
  時代劇の撮影場所として有名な通称「流れ橋」のたもとに、昨年四月、食を中心にした総合交流施設「四季彩館」がオープンした。ここでは、農産加工を通じて食文化の伝承をめざすNPO「京・流れ橋食彩の会」が、地元産品を使ったオリジナル商品の開発・販売や料理体験講習などをおこなっている。豊田さんもその中心メンバーだ。
小林  四季彩館は以前にJA女性協と生協の交流会で訪問させていただきました。並んでいる商品はどれもおいしいうえに、とても洗練されていて、従来の加工食品とはひと味違いますね。
豊田  ありがとうございます。私たちのモットーは「農産加工品づくりは家庭の食卓の延長線上で」なんですよ。家で常備菜をつくる時って、保存料なんて使いませんでしょう? 私たちも、家族のための常備菜をつくるつもりで、農産加工品づくりに取り組んでいます。ただ、不特定多数の方に召し上がっていただくものですから、衛生管理には家庭以上の注意が必要ですけれど。

 でもね、裏では苦心惨憺(さんたん)なんです(笑)。たとえば抹茶のパウンドケーキにしても、一般的には抹茶の代用に加工用原料が使われますが、私たちの地元は碾茶(※脚注)の産地なので、ほんものの碾茶を挽いてつくりたいんです。ところが、本来はおうす用のお茶ですのでケーキなどに使うと色が悪くなるんですよ。価格もそれなりに高くなりますし、その辺が苦心のしどころですね。

 でも、これも「安全・安心」のためのコストではないかと思いますので、ぜひその辺りの意を酌んでいただいて、私たちの農産加工品を召し上がっていただけたらと思います。  
小林  たしかに、くらしを取り巻く経済状況は厳しくなる一方なので、できるだけ安く買いたいけれど、消費者の消費行動は「食の安全・安心」を支えるうえで大事なことですものね。それに、本物を使ったおいしいものをいただくと、やっぱり幸せな気分になります(笑)。
※脚注:碾茶(てんちゃ) 抹茶に挽く前の高級茶葉。そのまま食べられる特徴を生かして、最近では「碾茶の炊き込みご飯」といった食べ方も提案されている。

「連帯」をベースにした農村女性の活動―ひとりではできない農業だからこそ
小林  ところで、JA京都女性組織協議会は、農家の女性の組織として活発に活動なさっていますね。
豊田

 私たちの先輩は、前身の京都府農協婦人部連絡協議会が1952年に結成されて以来、農村の生活改善や家族の健康を守る活動を続けてきました。家族の健康を守るにしても、生活様式を近代化するにしても、仲間や地域と一緒に取り組まないとできないことですので、活動のベースには常に「連帯」がありました。それが現在の「食と農を守る活動」などにつながっているのですから、その基礎をつくってくれた先輩の女性たちは偉いなと思います。

小林  農業はみんなで支え合わないと成り立たない仕事で、農村はそのための共同体。それを女性の組織がしっかり支えてこられたんですね。
豊田

 農家は、お父さん(夫)と二人でやる仕事が多いし、家事や育児も、まだまだ女性が担うことが多いですよね。それに、男性は会社に勤めて、毎日の農作業は女性がすべて担っているという農家もあります。統計によると農業就業者の六割は女性なんですよ。

小林  現場の実態としては女性がすごい力を持ってらっしゃるわけですね。そのことがJA組織にもきちんと反映されてきているとうかがっていますが。
豊田  「JA運動への女性の参画」は以前から活動の柱だったのですが、90年代以降、JA役員の中に女性の理事や監事への就任がぐっと進むようになりました。それまでの「お父さん(夫)についていく農業」から、「ひとりの女性としてどう農業に取り組むか」というふうに、農家の女性の意識も明らかに変わってきましたね。

農村に新しい風―家族経営協定
豊田

 それで思うのですが、女性も常に勉強ですね。せっかく参画の機会が与えられても、みずから学習して知っておかないと、対等に話ができませんから。  

小林

 社会的に認められるのを待つだけではなくて、女性自身が自分の力を高めていくことが大事だと思います。
 先ほど豊田さんがおっしゃったように、農家では女性は労働力としても大きな存在だし、家事や育児も担ってらして、すごい大きな経済的な力を持ってらっしゃるわけでしょう? 実態として、男性と対等な関係も結びやすいのではないかと思いますが…。  

豊田  最近は、「家族経営協定」を結ぶ農家が増えてきたんですよ。家事や育児も仕事とみなして給料を払ったり、始業時間や終業時間、休日なども、家族で相談して決めて、家族全員が調印するんです。何軒かの家族が合同で調印式をやる時などは、市長さんとか町長さんが立ち会われることもあるんですよ。  
小林  つまり、証人ですね(笑)。家族で協定を結ぶなんて、すばらしいわ!  
豊田

 そういう新しい発想って貴重ですよね。以前、農村女性の生活研究グループが「ハート&マネー」、つまりハートもお金も豊かになろうということで産直に取り組み始めました。あれも農村女性の起業ブームにつながっているかもしれません。  

小林  農家の女性が経済力を持つことで、農業そのものにも新しい可能性が出てきたようですね。  
豊田  みんなで学習して、みんなでやろうと結集したことが、新しい発想を生む力になったのでしょうね。女性のパワーは、これからの農業に絶対に欠かせないと思います。

「たべる たいせつ」は消費者と生産者の協同のうえに
豊田  でも、生協の活動もすごいと思いますよ。国の食品安全行政を変えさせたのですから。   
小林

 いえ、食品安全の社会システム確立を求める運動は生協だけで取り組んだのではなく、特に京都では、生産者にも大きなかかわりのある活動だということで、JAをはじめ多くの方々も一緒に取り組んでくださいました。だからこそ、食品衛生法の抜本改正や食品安全基本法の成立という大きな成果をあげることができたのだと思います。ありがとうございました。  

豊田  あのような運動を大きな輪にしていけたら、いいですね。  
小林  その意味では、きょうのようにJAや漁協や森林組合や生協が一堂に会して交流する機会はそれほど多くないので、大切にしていきたいと思います。  
豊田  私たちも、生協のみなさんと、年に何回か勉強会ができたらうれしいですし、生協のみなさんが私たちの活動のなかに入ってきてくださるのも、ふだんと違う発見があって、いいかもしれません。先ほどのNPO「京・流れ橋食彩の会」には非農家の方も参加なさっていますから。

 それに、きょう召し上がっていただいた編み笠だんごも、私たちの地域では昔からどの家でもつくっていたものですが、そういう伝統食もお伝えできたらと思っています。  
小林  そうそう、そういう発信をお願いしたいんです(笑)。編み笠だんごは、とてもやわらかいですね。びっくりしました。  
豊田  米粉ともち米粉を配合することで、二、三日経ってもやわらかく食べられる、まさに伝統の知恵です。  離乳食も、いまは缶詰を開けたらすぐ食べさせることができますが、昔はお母さんが地元で穫れた野菜や卵、肉や魚を使って、コトコト炊いて食べさせていましたよね。赤ちゃんの時に覚えた味は、成長しても舌が覚えているから、本物の味を子どもの時にちゃんと味わわせてやりたいと思います。  
小林  できるだけその土地の自然の循環システムを壊さないように努力してつくられた食材を、丁寧に調理・加工して、きちんと食べる―。まさに「たべる たいせつ」ですね。

 ですが、消費しているだけですと、その辺りを実感したり、素材そのものの味を知ったりする機会は少ないので、生産者のみなさんから発信していただけると助かります。

 そのためにも、きょうのような交流も大切にしながら、本当はもっと地域で、消費者と生産者の小さな集まりを持つことが大事なのでしょうね。地域という小さな単位で、常に消費者と生産者が一緒になって、食と農、くらしのあり方などを語り合い、いざという時には大きな単位でも力を合わせることができる―。そんな関係をめざして、今後ともどうかよろしくお願いいたします。



写真撮影/有田知行


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京都府生活協同組合連合会連合会