「京都の生協」No.51 2004年3月発行 この号の目次・表紙

「ほっ」とすることを大切にしたいですね ―京町屋からのメッセージ

 墨で書かれた、擬人化した漢字に、軽妙なイラスト。見た瞬間、思わずクスッと笑ってしまう作品がいっぱい。機音が聞こえてきそうな西陣のアトリエに遊墨漫画家・南久美子さんを訪ねると、絵の雰囲気そのままの柔和な笑顔に出会えた。

 
遊墨漫画家 南 久美子さん   京都府生活協同組合連合会副会長
(京都生協理事長)
 小林智子さん


“体力”と“気力”が必要な町家暮らし
小林  このユーモア工房“アトリエほっ”も、常設ギャラリー“Machiya de ほっ”も、築100年以上とは思えない、モダンな機能美があって、すばらしいですね。あらためて京町家の生命力のようなものを感じます。   
 ありがとうございます。でも、冬は寒いし、町家に住むには、けっこう体力と気力がいるんですよ(笑)。私は、現在ギャラリーにしているほうの家で生まれて、結婚するまで暮らしましたが、暗くて寒い町家が大嫌いでした(笑)。  
小林  それは意外なお話ですね。ご実家は電気屋さんで、以前は現代的な外装のお家だったとか。  
 はい、町家が嫌いで、お日さんが直接入ってくる家があこがれでしたから、ハイカラな外装にした時はうれしかったですね。実家はもともと炭屋だったのですが、炭が使われなくなったので電気製品を扱うようになって、昭和30年代に、中途半端にモダンな新建材の張りぼてで、町家の梁や柱を全部隠してしまいました。でも、子どもの私にしてみれば、明るい家になって、ひたすらうれしかったんです。  
小林  町家のよさに気づかれたのは、いつですか?
 町家ブームが訪れる少し前です。父が他界したあと、誰も住まなくなって、「ギャラリーにしてみたら?」という夫のアイデアで、張りぼてをはがしてみたら、梁や柱がちゃんと残っていました。いろんな方から「いい家だねぇ」といわれて、はじめて「そうか、そんなにいいのか」と(笑)。

阪神淡路大震災後の作品展へのメッセージから
小林  隠していたものをとることで、変わらぬよさが見えてくるというのは、南さんの絵にも共通しているなと思います。とかく私たちは、心に鎧を着て、他人に内面を見せないように防御の姿勢で暮らしがちですが、そういう時に南さんの絵に出会うとほっとする。たぶん、心が開放されて、素の自分に戻れるからでしょうし、それは合板を取り払ったこの家のよさを再発見することとも共通しているように思いました。
 そう思ってくださるとうれしいです。私はもともと「サザエさん」のような四コマ漫画を描いていたのですが、ある時、鎧を脱いだら弱い自分が出てくることに気づいて、「じゃあ、弱い自分を許して、弱くてもがんばっている自分をほめてやろう」と思ったんです。私たちは「自分にきびしくするのが美徳。自分を許したりほめたりするなんてとんでもない」という教育をうけてきましたけれど、その発想を逆転したらどうかなと思ったんです。
小林  そうすると「ほっ」が出てきたんですね(笑)。「自分に優しく」って、私も大好きです。自分に優しくすることで、他人にも優しくなれますから。
 自分を許せなくてカリカリしていたら、人にも冷たくなってしまいますね。
小林  それでギャラリーにも「ほっ」という名前を?
 笑いの医学的効用が注目されはじめた頃がありましたでしょう? あの頃、私も笑いで心を癒せたらいいなと思いながら絵を描いていて、阪神淡路大震災の1年後には、被災者のみなさんに見ていただこうと神戸元町の百貨店で作品展を開いたんです。すると、震災にあわれた方がたがたくさん来てくださって、約2000通のメッセージを寄せてくださいました。まるで手紙のようにぎっしり書かれていて、とても感動したのですが、もっとも多かった言葉が「ほっとしました」「ほっこりしました」だったんです。
 どちらも使いなれた言葉なのに、妙に心に残って、「いつかギャラリーやアトリエを持てるようになったら、絶対に『ほっ』を使おう!」と思いました。そんな経緯から出た「ほっ」なので、私の気持ちのなかでは阪神淡路大震災の時の思いにつながっていくんですよ。

いっしょに食べて、「合笑」すれば仲よくなれる
小林  南さんの絵のなかで、私はとくに、犬のお母さんが子犬におっぱいをあげている「気にしない気にしない」が好きです。子犬のなかに一匹だけ子猫が混ざっていて、うれしそうな顔でこっちをふりむいて笑っている。ああ、いいなぁと思いました。

 ありがとうございます(笑)。

小林  私たち生協は「生活を協同する組織」で、なかでも共同購入は、用事があって配達の時間には行けなくてもお互いに協力しながら支え合うシステムなのですが、最近は「買い物の中身をお隣に知られたくない」といった反応もあるんです。児童虐待が長いあいだ見すごされる背景には、「家庭の中を見せたくない」「他人には関わりたくない」という風潮も影響しているのではないかと思うと、「気にしない気にしない」の絵の、「自分の子も他人の子も、まぁええやないか、いっしょに育てようや」というメッセージがぐっと迫ってきます。

 私も子育てを経験しましたが、「他人なのに口出ししてもらって、ありがたい」と思えるような関係をつくらないと、ほんとうの子育てはできないかもしれませんね。

小林  そういうお互いのつながりを、私たち生協も日常の暮らしのなかでたくさんつくっていきたいと思っています。
 たとえば食べ物は、工業製品ではなくて、「命」そのもの。その食べ物の命をいただかないと、私たちも生きられません。だから、命の一員としていつくしんで、おいしく調理して、「おいしいねぇ!」と言葉をかわしながら、しっかりいただく。そんな日常の積み重ねを大事にして、たんにお腹を満たすだけではなく、心も満たしたい。そういう関係づくりのお手伝いができればと考えているんです。
 同じものを食べて、おいしさを共有できるって、コミュニケーションの大切なポイントですね。
 それに、夫婦でも、友だちでも、親子でも、同じところで笑えると、とても仲よくなれて、同じことで喜べたりします。だから、私は「合笑」、つまり笑いのポイントの相性が大事だと思うんです。
 「ユーモア」という言葉には、「おかしみ」という意味だけではなく、「優しさ」という意味も含まれているそうですから、笑いにくるんでメッセージを送ると、人の心に届きやすいかもしれませんね。

互いに力をもらいながら生きている―支えあう喜び
小林  最近、福祉の活動もはじめられたそうですね。

 はい、老人福祉施設の理事をさせていただくことになりました。それと、今春には癒しのNPO法人も立ち上げる予定です。

小林

 癒しのNPO法人というと?

 これまでも震災や介助犬関係のチャリティ作品展というかたちでかかわってきたのですが、個人では規模が小さいので、このさい、もっと影響力のあるNPO法人にしてはどうかということになったんです。当面は私の作品展のチャリティぐらいしか思い浮かびませんが、新しいことにも挑戦していきたいと思っています。
小林  ギャラリーのある西陣まで足を運べない方も多いでしょうから、老人ホームとか、いろんな場所で作品展をやっていただけたらいいですね。

 そういう場所で映像やCDを使った表現を試みるのも、おもしろいかもしれません。機会があれば、ぜひ挑戦してみたいですね。 

小林  生協も福祉については長く取り組んできて、たくさんの組合員がボランティアやヘルパーというかたちで活動しているのですが、「お世話する人・される人」という関係ではなく、支える側も「支える喜び」を感じている人が多いんですね。これは生協らしい福祉活動を考えるうえでとてもたいせつなことだと思っています。
 お互いに対等な関係で支えあうのだから、「おじいちゃん」とか「おばあちゃん」ではなく、「○○さん」という名前をもった個人として認めて、その人が最期まで自分らしく生きられるようにサポートすること。それが、生協らしい福祉のあり方としては大事だと思っています。
 人間は、口角をクッと上げるだけで体内が活性化するそうで、割り箸をくわえて口の両端を上げるだけで、お年寄りの痴呆が改善した例もあるそうです。お化粧をしてあげたら、表情がとても豊かになって、おむつを外せるようになったという女性の高齢者の方の例も聞きますから、最初から「この人はお年寄りだから、痴呆だから」で片付けないで、最期まで「○○さん」という存在として接することが大事ですね。
 お世話する側も支えられているというお話を聞いて、以前、マッサージ師さんがおっしゃっていたことを思い出しました。マッサージする方は、かたわらで見ているとすごい力を使っているように見えますが、相手の体を押したことで自分の手のひらのツボが押されて、実際は自分じしんが元気になっておられるそうです。「してあげている」ように見えて、じつは自分が「してもらっている」わけです。
小林  そういうことって、きっとほかでもたくさんあるんでしょうね。南さんの絵を見て、ほっとして、「よかったわ」というメッセージを出すと、南さんが元気になる。そして、またほっとする絵を描いてくださる…というふうに。
 ほんとうに、私にとって、みなさんのメッセージは宝物です。人は、そうやってお互いに力をもらいながら生きているのだと思います。

平和、そして人間をつつむすべての環境を「ほっ」に
 「自分らしく」という意味では、女性は結婚すると、食生活や生活習慣も夫や子どもに合わせがちですよね。じつは私は、子どもの頃からナスのお味噌汁が大好きでしたが、夫はこれが嫌いだったので、私も結婚してから食べなかったんです。でも、去年このアトリエを構えてから、ひとりで食事する機会がふえたので、夏には「ここぞ」とばかりにナスのお味噌汁をつくって、思いっきり食べました。それこそ「あぁ幸せ! ほっ」という感じです(笑)。やっぱり、周りに合わせるばかりではなくて、むしろ自分が大切にしてきた味覚や習慣はちゃんと伝えていきたいし、きちんと自分を主張したいですね。
小林  男性であれ、女性であれ、基本は「自分らしく」で、そのうえでお互いに認め合いたいですね。
 そう! 自分をしっかりもっていると、他人にも寛容になれます。
小林  そして、ひとりでできないことは、みんなで協同して取り組む。安全な食べ物を手に入れたいと思っても、ひとりでは無理ですし、現在のように食材が世界中をかけめぐる時代には、生協だけで完結する問題でもありません。ですから、協同の運動として「食の安全」の問題にしっかり取り組んでいかなければと思っています。
 ぜひ、そうしていただきたいですね。食べ物を含めて、人間をつつむ環境のすべてを「ほっ」とさせないと、ほんとうの「ほっ」もないと思っています。その意味では、戦争も関わってくるし、じつは「ほっ」って大きな問題なんですね。
小林  みんなが心の底から「ほっ」とできる世の中になるように、それぞれの場所で取り組みたいですね。ときどき「ほっ」と一息つきながら(笑)。



写真撮影/有田知行


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