「京都の生協」No.53 2004年8月発行 この号の目次・表紙

「食の安全」を支え、子どもたちの 「生きる力」をはぐくむために―

 BSE、O157、鳥インフルエンザ、コイヘルペス―。食品の安心・安全をおびやかす問題の頻発を契機に、京都府は食の安心・安全をめざすプロジェクトを立ち上げた。農林水産部・保健福祉部・商工部を横断するこのプロジェクトを率いるのは副知事の佐村知子さん。今回は、佐村さんの食にまつわる思い出や食品安全行政への思いをうかがった。

 
京都府生活協同組合連合会会長
(京都生協理事長)
 小林智子さん
  京都府副知事 佐村 知子さん


京都の魅力と「食」の文化
小林  先日は私ども生協連の総会にあたりまして山田知事からご祝辞をいただき、ありがとうございました。また、佐村副知事には、京都生協の総代会に来賓としてごあいさつをいただき、あらためて御礼を申し上げます。
 ところで、京都に来られて、もう2年になりますか。京都のまちの印象はいかがですか。
佐村  府庁と自宅(北山にある公舎)の往復が主で、京都をよく知っているとはとてもいえないのですが、まちのサイズが大きすぎず小さすぎず、ちょうどいい感じがします。それに、京町家のように、伝統を感じさせるたたずまいが残っていますでしょう。だから、人びとをひきつけるんですね。じつは、私が「京都」を感じるのは、たまに週末に東京へ戻ったときなんです。近所の本屋さんに行くと「京都本」が山積みですし、京野菜を扱う食料品店、料理店もふえていて、「ああ、やっぱり京都って魅力的なまちなんだなあ」と思いますね。
小林  外国の方や他府県の方がたが京都に関心を持ってくださることで、逆に私たちが京都のよさを再認識しているような面もあります。とくに最近は、お公家さんを中心とした貴族の文化だけではなく、町家やおばんざいなど、庶民の生活文化が見直されていて、私たち京都の生協もそれをちゃんと引きついでいけたらと思っているのですが、おばんざいはお好きですか。
佐村  大好きです(笑)。とくに「エビイモと棒ダラの煮物」や「ニシンとナスの炊き合わせ」が好きですね、自分ではよう作りませんけど(笑)。でも、「ミズナとお揚げ」や「万願寺トウガラシとチリメンジャコ」を炊いたものなど、見よう見まねで作ってみて、家族の好物になりました。
小林  私も、この季節になると万願寺トウガラシをよく使います。といっても、ただ焼くだけで、とても料理とはいえませんが(笑)。
佐村  そうそう、万願寺トウガラシは焼くのが一番ですね。私も教えられて、実際にやってみましたが、こんなに簡単でいいのかと思うぐらいシンプルなお料理なのに、とてもおいしくて、びっくりしました(笑)。
小林  考えてみると、京都では、おナス、お豆腐、お揚げさん、お豆さん…というふうに、ふだんよく食べるものには「お」や「さん」を付けてよびます。それだけ、ふだんの食事を大切にしてきたのだろうなと思いますが、佐村さんの「食歴」でとくに印象に残っているのはどんな食べ物ですか。たしかご出身は長崎でしたね?
佐村  好き嫌いは別にして、子どものころよく食べたのは皿うどんとチャンポンです。母があまり丈夫なほうではなかったので、夕飯は中華料理屋さんから出前をとることも少なくなくて、そういうときの定番が皿うどんでした。なぜかというと、カキやアサリなど味の出る魚介類をたくさん入れるし、野菜もたっぷり入ってますでしょう。1食でバランスのとれた総合食になるんですね。でも、少し脂っぽいので、私じしんは当時は苦手でしたが。
小林  長崎の中心部にお住まいだったんですか。
佐村  ええ、長崎は江戸時代に京都との交流もけっこうあったので、家の造りも京都の影響をうけていたように思います。入り口には格子戸、玄関には上がりの間、台所とお風呂は離れで、夏には襖をはずしたり、よしずをかけたり…。ですから、京都で町家を見たとき、どこかなつかしい感じがしましたね。
 印象に残っている食べ物は、父方の祖母がつくってくれたイワシのつみれや焼きアゴ(トビウオ)のふりかけです。祖母は、新鮮な近海の魚が手に入る平戸の出身でしたから、生のイワシや焼きアゴを何時間もかけて叩いたり、すりつぶしたり、手間をかけて調理していました。まさに「スローフード」そのものですね。
小林  なるほど。京都は逆に、新鮮な魚が手に入りにくい内陸部が大部分ですから、この環境に合った料理が発達しました。
佐村  私などは魚といえば生魚を思い浮かべるのですが、京都では一塩もののお魚のことをいうんですね。
 新鮮な魚が手に入りにくかった地域性を逆手にとって、ぐじ、鯖ずし、ばらずし…というふうに、魚をおいしく食べる方法を編み出し、それが伝統食としてちゃんと受けつがれている。そこが京都のすばらしさだと思います。

お得意な料理は…… 「必殺卵焼き」なんです
小林  私は、少し前に、町家があるような京都市内から朝市が立つような農村に引っ越しました。せっかく農村に住んでいるのだから旬の野菜で暮らそうとがんばっているのですが、旬というのは、とにかく同じ野菜ばかりとれるんですね。ですから、いまは毎日、ナスにキュウリにトマトの連続ですが、やっぱり旬の野菜はおいしくて、しかも安い。まさに「旬を食べる」ことの裏と表を実感する日々をすごしています。それに、黒豆の産地ですので、黒豆だけはじょうずに炊こうと決意して、何度も炊いているうちに、ずいぶんじょうずに炊けるようになりました(笑)。
佐村  私もひとつだけ、決めていることがあるんですよ。それは「おみおつけのだしとお味噌だけは大事にしよう」ということ。子どもが生まれたときにそう決めて、いまでも、おだしは煮干しや鰹節や焼きアゴでとって、お味噌は母方の叔母の手づくりのものを使っています。ただし、他は手抜きばかりしていますけど(笑)。
小林  それは意外なお話です。ずっとたいへんお忙しいお仕事をつづけてこられた方だから、おそらく毎日はお料理する時間はとれないだろうと思っていました。
佐村  はい、やっていません(笑)。でも、東京にいるときは、子どものお弁当だけはつくっていました。最近、子どもに「お母さんの得意料理って何だと思う?」と聞くと、冬瓜のあんかけやスープ、それにお弁当の「必殺卵焼き」をあげましたね。
小林  「必殺卵焼き」…ですか?
佐村  いろんな野菜やシラスをきざんで入れた特製卵焼きなんです。「1日30品目を食べよう」といわれますが、朝と夜だけではそんなにたくさんの品目がかせげないから、せめてお弁当で食べさせようと、思いついたんです。でも、子どもにいわせると「あれは卵焼きではない!」んですって(笑)。

食の安心・安全めざして 行政・生産者・消費者のパートナーシップ
小林  生協は、「食の安全を確保するための社会システム」を求める署名運動を、他の団体のみなさんと一緒に取り組んできました。それが昨年五月に「食品安全基本法」の制定、食品衛生法の改定というかたちで実を結んだことは大きな成果だと思っています。ただ、「法律ができたから、もう安心」ではなくて、その後も「コープさくら卵不正出荷事件」や鳥インフルエンザの発生がありました。
佐村  ほんとうにそうですね。生協は、消費者と生産者を結ぶ立場に立っておられるだけに、とくに卵の事件ではたいへんなご苦労をされたと思います。
小林  卵の不正出荷事件は「いつもと違う味がする」という組合員からの発信で明らかになりました。コープさくら卵は組合員からとても支持されている商品です。そして、生産者組合とは、養鶏場訪問などもふくめて長く交流を深めてきました。それだけに組合員も職員も大きなショックをうけました。法を整備するということとあわせて、消費者の信頼にこたえ、安全な食べ物をつくるという生産者のモラルが大切で、その前提があってこそ、チェックシステムも有効にはたらくのだと思います。そういった意味で今回の卵不正出荷事件は、とてもむずかしい問題があったと思っています。
 京都府は、鳥インフルエンザ問題をうけて「食の安心・安全プロジェクト」を立ち上げ、佐村さんはその責任者になられましたね。
佐村  京都府としては、これまでも、農林水産部は京野菜をはじめ府内産の農林水産物の安全確保やトレーサビリティシステムづくりなどに懸命に取り組んできましたし、保健福祉部も食中毒対策をはじめ食の安全に取り組んできました。でも、横断的に取り組む場がなかったんですね。そこで今回、食品の安全対策や食の問題に関する消費者・府民のみなさんとのコミュニケーションのあり方、地産地消などもふくめて、タテ割りの壁をこえて横断的に取り組むプロジェクトを発足させました。このような場ができたことは、一歩前進だと思っています。
 小林さんにもプロジェクトが担当する「食の安心・安全アクションプラン」の政策立案メンバーになっていただきましたが、検討会議の場で「安心と安全は違う」とおっしゃいましたね。あれは非常に印象的な言葉でした。京都府は農産物の生産履歴情報を提供するトレーサビリティシステムづくりに取り組み、安全な食品づくりは一定進んだと認識していますが、いくら「これは安全です」といっても、消費者はそれで安心されるわけではないんですね。食品は、何を原料に、誰がどんなプロセスでつくったのか…といった面が他の製品にくらべてとてもデリケートですから、それを消費者のみなさんにきちんと伝えるには特別なスキルが必要なのだろうと思います。
小林  リスクコミュニケーションの問題ですね。生協組合員も、とかく「白か黒か、安全か安全でないのか」を問う傾向があります。でも食品に限っては、トレーサビリティシステムやそれにもとづく徹底した情報提供をしてもなお、「リスクはゼロ、100%安全」ということはありえない。このことの理解がなかなかむずかしいので、生協として食品のリスクについて学ぶ場をもっとつくらないといけないと思っています。
 それと、卵のトレーサビリティシステムについては検討をお願いしたいと思いますが、平飼い卵などを生産している小規模農家は大規模な養鶏場と同じ基準では負担が大きすぎるので、ぜひ農家の実情に合わせた取り組みをお願いしたいと思います。
佐村  たしかに、トレーサビリティシステムにしても、ハサップ(HACCP)にしても、大規模養鶏の基準を庭先養鶏にも当てはめようとすると、ハードルが高すぎたりして無理がでてうまくいかないことが考えられます。この点はよく検討していく必要があると思いますね。それに、伝統的においしいといわれるものは、比較的小規模でつくられている場合が多いように思います。
 それにしても、小規模農家への配慮といったお話が出るのは、消費者と生産者を結ぶ立場で取り組んでこられた生協ならではでしょうし、私ども行政としてもパートナーシップがとれる部分だと思います。

「食育」― 子どもたちの「食べる力」は「生きる力」
小林  リスクコミュニケーションや次代の消費者を育てることなどを考えると、やはり「食育」が大きな課題ですね。
佐村  子どものころにどんな味覚や食習慣を身につけるかは大事だと思います。わが家の場合、私も夫も働いてきましたので、子育ては必然的に義母などの手をかりましたが、そうすると子どもも自然に野菜や魚の味に親しむようになりました。専門家の話によると小学校低学年ぐらいの時期が大事だそうですから、そのころに給食などを通して食べ物についてきちんと教えることが大切だろうと思います。
小林  地元産の農産物が給食の食材になり、教室では生産者の方がたと子どもたちが交流する…なんてことができたらいいですね。
佐村  学校給食は、安定的な供給量の確保やコストなど、クリアしなければならない課題も多いのですが、いま農林水産部では「いただきます。地元産」プランや「ブランド京野菜等倍増戦略」を通じて、府内産農産物の流通対策に取り組んでいます。子どももふくめた消費者と生産者が結びつくように、私ども行政もいっそうの工夫と努力をしていかねばと思っています。
小林  いまは、生産と消費の距離が遠くなっています。生産者と消費者がもっと交流し、お互いを理解しあう機会が必要だと思っています。京都生協では、多くの組合員が子どもたちと一緒に産地に出かけて体験や交流をしています。もっと産地を応援しようという「商品サポーター」という活動も広がっています。生産者の方も店頭に立っていただいて、直接消費者の声を聞く機会をつくっています。また、大学生協でも、食に関心をもった学生委員さんたちが生産者との交流や、食堂のメニューに取り入れたりといった活動がさかんになってきています。次世代の人たちに「食べる力」つまり、「生きる力」をしっかりつけてほしいと思っています。
佐村  ほんとうにそうですね。こんご、食の安心・安全対策をすすめていくうえで、生協のお力をおかりする場面もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
小林  こちらこそ!(笑)きょうはありがとうございました。





写真撮影/2004年7月8日 有田知行


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