「京都の生協」No.54 2004年11月発行 この号の目次・表紙

豊かな福祉と平和はわたしたちの共通の願い
安心してくらせる社会を、連携の力で ―

 だれもが「安心してくらしたい」と思っているのに、いまだ世界に戦火はたえず、国内には失業・介護・年金・食…と、不安の種がつきない。企業犯罪や若者・高齢者をねらった犯罪も多発している。安心してくらせる社会を実現するには、さまざまな組織や個人が連携し、共同していくことがもとめられる。「平和で豊かなくらし」について、京都労働者福祉協議会(以下、労福協)の木戸美一会長にお話をうかがった。

 
京都労働者福祉協議会会長
きど よしかず  
木戸 美一さん
  京都府生活協同組合連合会会長理事
(京都生協理事長)
こばやし ともこ  
小林 智子さん


わたしたちの共通の目標は「人びとの経済的・社会的・文化的なニーズと願いを満たすこと」
小林  小林 先日は京都労福協主催の「勤労者健康スポーツフェスティバル」と私ども京都府生協連主催の「京都・丹波『丼・どん』元気が出るテント村フェスティバル」を丹波自然運動公園で同時開催することができました。おかげさまで参加された方にはおおいに楽しんでいただけたのではないかと喜んでいます。ご協力ありがとうございました。 
木戸  いや、どうもお疲れさまでした。お互いに成功して、よかったですね。こういう取り組みを通じて食料問題への関心が高まればなによりです。
小林  ことしは高病原性鳥インフルエンザの問題が起きて、生産者のみなさんはたいへんな思いをなさいましたし、私たち消費者も、あらためて食べ物の生産現場に思いをはせる日々でした。この問題に一区切りついたいま、なんとかして生産者のみなさんを励ませたらと企画したしだいです。
 さっそくですが、労福協の指針を拝見しましたら、「我々の進める福祉活動は…『生活者』の経済的・社会的・文化的満足の拡大を達成することにある」と書かれていて、これは国際協同組合同盟(ICA)の「協同組合は、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織である」という定義とよく似ていると思いました。
木戸  たしかに似ていますね。労福協は、労働者福祉の要求実現を通じて勤労者・労働者とその家族の生活向上・安定と真に平和で豊かなくらしを保障する社会をつくりだすことを基本理念にかかげる組織で、その地方組織である京都労福協は1957年、全国で6番目に誕生しました。京都府生協連も理事会の一員として参加していただいています。
小林  正直なところ、労福協という組織は一般的になじみが少ないと思うのですが、具体的にはどんな取り組みをなさっているんですか。
木戸  ことしはとくに中小企業勤労者のための福祉サービスセンターの充実に力を入れたいと考えています。日本の企業内福祉をみると、大手企業には非常に手厚い半面、圧倒的多数をしめる中小・零細企業勤労者には貧弱なものとなっています。ことに京都は中小・零細企業が多いので、そこで働く人たちへの福祉をもっと拡充しなければと思います。
 ほかにも、来年の介護保険改定を控えて介護事業の充実や、まもなく定年退職をむかえる「団塊の世代」の人たちとの連携、子育て支援、勤労者の環境変化への対応を支援するライフセミナー活動などを重点課題にかかげています。
小林  とても幅広い活動ですが、設立から50年近く経過すると、社会や企業や労働のあり方もくらしの姿も変わりましたでしょう?
木戸  設立当初とはとりまく環境も大きく変化し、「労働者福祉の向上に寄与する」とのスローガンだけではすまない時代ですから。平和で、勤労者・労働者が安心してくらせる将来のために、労働団体や生協や市民NPOと連携して、具体的な取り組みのなかで役割をはたさねばと思っています。今回のフェスティバルの同時開催の取り組みも、そんな気持ちで参画させていただきました。

安全な食べ物を安定的に供給する「地産地消」のシステムづくり
小林  ご経歴を拝見すると、私たちは同世代ですね(笑)。
木戸  ええ、例の「団塊の世代」というやつです(笑)。
小林  ということは、私たちはお互いに、あまり豊かではない食生活で育ったのではないでしょうか(笑)。
木戸  はい、好き嫌いをいう余裕もなく、何でも食べました(笑)。私は、高校を卒業するころまで伏見桃山で育ちましたが、あのころはまだ近所に農家が多くて、農家の庭先の柿やザクロも無造作に食べましたし、近くの山でアケビをとったり、野イチゴやイタドリやグミを食べたりしました。
小林  自然児でいらしたんですね(笑)。あの時代にくらべると、いまは海外から輸入された農産物が食卓にのぼらない日はないほどで、食をめぐる問題もとても複雑になりました。そんな事態のなかで、私たちは食品衛生法の抜本的改正をもとめる運動を起こし、労福協やJAのみなさんもいっしょに取り組んでくださって、新しく食品安全基本法がつくられたのですが、その後も食をめぐっていろんな問題が起きています。
木戸  今回の鳥インフルエンザ問題では、関係者のみなさんはたいへんだったと思います。私ども労福協も「秋の自治体要求」で食の安全の充実を要求項目に掲げましたが、食の問題は、安全性の確保だけではなくて、食料を安定的に供給する課題もあるんですね。この両立がなかなかむずかしい。
小林  安全な作物であっても、再生産が可能な価格設定でなければ、生産者は作りつづけることができないし、一方、私たち消費者は、あまり高すぎると買いつづけられない。このすり合わせを可能にするのは、作る側と買う側の「顔の見える関係」だと思います。誰が作ったかわからないものがポンと置いてあると値段の安さと見た目だけで買ってしまうけれども、日ごろから生産者のみなさんと交流して、農業への姿勢や具体的な栽培過程を知っていれば、値段や見た目だけが基準になることはない。ですから、生協としてはとくに生産地と消費地の関係づくりに意識的に取り組んでいきたいと思っています。
木戸  そういうふうに、府内で作られた食べ物を府民が食べる「地産地消」もふくめて、生産から流通・消費にいたる信頼できる品質管理システムを確立することが、食料自給率40%以下という状態のもとで、安全な食べ物を安定的に確保する保障になるでしょうね。
小林  それに、いまは過剰なほど健康志向がつよくて、つい栄養や効能にばかり関心がむきがちですが、おいしくいただくことが食の原点だと思いますので、みんなで「おいしいね」といいながら食べることも大事にしたいと思います。
木戸  そう考えると、食の問題というのは、経済的・社会的・文化的側面をすべてふくんだ、幅の広い、しかも奥の深い問題ですね。

連携して「悪の連鎖」を断ち切ろう
小林  最近、生協の利用高や大学生協の食堂の利用額などが落ち込んでいます。不況のもとで食費を切りつめ、さらに医療費の自己負担もふえるなか、受診抑制が起きて、食と医療が不況の犠牲になっているようです。
木戸  日本の勤労者家計の可処分所得は6年ぐらい連続して減少していますよね。それが貯蓄の取りくずし、食費や医療費の切りつめにむかっているのは各種のデータでもあきらかです。
小林  生協の家計調査でもそれはあらわれています。景気が上向いているといわれても、くらしの実感としてはあいかわらずきびしいですね。
木戸  とくに近畿は、完全失業率は全国平均よりも高い5%後半でとどまっていて、好況感は全然ありません。
小林  にもかかわらず、インターネットや携帯電話は生活必需品に近い状態ですので、家計支出でも通信費だけはふえています。ふやさざるをえない、というのが正直なところでしょうね。でも、一方ではインターネットをつかった詐欺で若者がねらわれ、オレオレ詐欺で高齢者がねらわれるというように、情報機器をつかった犯罪も急増しています。
木戸  多重債務問題も急増していますし、やはり経済的な苦境・消費の停滞・モラルハザードという悪の連鎖だと思います。食や医療など、消費者が直接責任を取りようがない問題で犠牲だけをしいられるのは不条理です。これを放置すれば、モラルも崩壊して、ますますおかしな世の中になってしまいます。不条理をただすとともに、多重債務防止については、労福協としても自治体にたいして相談窓口体制の強化など対策をとるよう要請してきましたが、多くの団体が連携して、未然防止策の取り組みなどをつよめていく必要があると思います。

働きつづけながら子育てできる社会を
小林  男女共同参画や子育て支援についてですが、私の息子たちの子育てをみていると、私が子育てをしていたときの夫のかかわり方とは意識も行動も全然違っていて、とても積極的です。社会の意識は、徐々にではあっても、確実に変わりつつあるのだなあと実感しました。
木戸  私にも孫がいますが、働きつづけながら子育てできる環境をつくらないと、もう「男性は外で働いて、女性は家で家事・育児に専念するのが当たり前」という時代ではないでしょう。条件整備をぬきに、いくら男女共同参画や少子化対策を論議してもだめだと思います。
小林  働く女性がふえてくると、地域生協も変化を求められるんですね。京都生協もふくめた地域生協は、専業主婦を中心的な組合員として発展してきた組織ですから、男女共同参画という視点からみると、少しいびつな構造をもっています。でも、働きつづける女性がふえれば平日の昼間中心の活動スタイルも変えなければなりません。留守がちな人や子育て中の人や高齢者のニーズに対応して個別配達という利用システムも導入しました。
木戸  なるほど。そういう変化への対応は事業に直結する問題でもあるし、大切でしょうね。

介護は、制度の充実+団塊の世代のパワーで
小林  私たち団塊の世代にとっては介護もさけてとおれない問題ですが、労福協としてはどのような事業を…
木戸  他県には介護保険事業を展開している労福協もありますが、京都労福協はまだその段階にいたっていません。労福協の加盟団体である全労済が以前からホームヘルパー養成講座を開いていましたので、そのサポートというかたちでかかわっています。労福協として事業を展開する場合は、労働者福祉にかかわる幅広い団体との連携を重視していきたいと思っています。
小林  京都府生協連では、医療生協が介護事業に取り組んでいますし、京都生協も介護保険がはじまる前年の99年から訪問介護事業をはじめました。有償ボランティアの「くらしの助け合いの会」の活動がもう19年目になりましたので、その信頼をベースに利用者がふえつづけています。ホームヘルパー養成講座も開いてきましたが、最近は仕事として取り組みたいという人がふえています。
 ただ、ヘルプによる収入だけで生活が成り立つ状況ではありませんし、介護保険のなかで家事援助の評価が低いという問題もあります。高齢者のなかにも少し家事援助をすれば自立生活をいとなめるようになる人が多い、というのが私たちの実感ですので、家事援助のサービス報酬を減らすという国の方針は高齢者のためにならないのではないかと思っています。
木戸  自助・共助と社会保障制度の基盤としての公助のすみわけをおこない、これらをうまく組み合わせて豊かな社会保障を実現することが大事であって、介護保険にせよ子育て支援にせよ、財政がきびしくなってきたからサービスを削るというのは、おかしな方向です。私たちは、そういう思いをもって運動にかかわり、関係諸団体と連携をとりながら、制度の充実を求めていかないといけないだろうと思います。
 それと、もう一方で、知恵も知識も経験も豊かでかつ元気な団塊の世代の方がたのパワーをこんごの労福協活動にいかせれば良いと思いますし、シニアの挑戦に期待します。

平和のために、よく学び、ともに行動しよう
小林  労福協も生協も、共通して「平和」という目標をかかげていますが、いまは平和の危機感がつのる毎日です。全国の生協の共通テーマ「平和とよりよい生活のために」の、「よりよい生活」には食の安全や環境もふくまれますし、その前提となる「平和」は、たんに戦争のない状態だけではなく、差別やいじめがない状態でもあると思っています。そういう立場で非核をもとめる活動や平和行進などを地道につづけてきましたが、若い組合員さんのなかには「なぜ生協が平和行進なんかするの?」という声もあります。ですからさまざまな問題についてまず学ぶことを大事にしています。
木戸  平和の活動はとても重要だと思います。人が人を差別したり、殺し合ったり、たくさん人を殺した人間が英雄になるなんて愚かなことは絶対に許してはいけない。とりわけ核問題は、唯一の被爆国として「非核三原則」の堅持をはじめ、平和を追求する取り組みを絶対に風化させてはいけないと思います。労福協運動の基本理念も「勤労者が平和にくらせる社会をつくること」にあります。
 それに、運動というのは、まず「なぜ、それをするのか」と疑問をもつことからはじめないとほんとうの力になりません。だから、生協が学ぶことを大事にされているのはすばらしいと思います。自分の頭できちんと考えた力は、一つひとつは小さくても、集まれば大きな力になります。実際、それが国際的なNGOの活動につながって、国家が解決できないような問題を改善している例もたくさんあるのですから、お互いに連携していきたいですね。
小林  ほんとうにそう思います。一致できる活動はいっしょに取り組んでいきましょう。こんごともよろしくお願いいたします。




写真撮影/2004年10月6日 有田知行


〔 ひとつまえにもどる 〕


京都府生活協同組合連合会連合会