「京都の生協」No.55 2005年2月発行 この号の目次・表紙

おいしくて、品質たしかな魚を食卓に届けたい!
漁業者と消費者が力を合わせ、ゆたかで、きれいな海を後世に―

 がん予防や健康チェックでは、かならず「肉よりも魚や野菜をたくさん食べましょう!」というフレーズが登場するけれど、魚たちがくらす海のなかはどんな状態なのか、どんな魚がいるのか、漁はどのようにおこなわれているのかなどについて、私たち消費者が知る機会は少ない。一方、漁業にたずさわる人びとは、「おいしい魚をもっと食べてもらおう」と、水産資源の保護や鮮度保持の研究に懸命に取り組んでいるが、漁獲量の減少など心配事も多い。今回は、昨年6月、京都府漁連の会長に選任され、「背広は窮屈で慣れない」といいながら漁業の振興をめざして東奔西走する佐々木新一郎さんに、海の環境変化や台風被害、女性の活躍などについてお話をうかがった。

 
京都府生活協同組合連合会会長理事
(京都生協理事長)
こばやし ともこ  
小林 智子さん
  京都府漁業協同組合連合会
代表理事会長
ささき しんいちろう  
佐々木 新一郎さん

 

漁師にとって「台風より怖い冬のシケ」、でも去年は…。
小林  新年あけましておめでとうございます。
佐々木  おめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
小林  こちらこそ、よろしくお願いします。ところで、昨年は台風の被害が大きくてたいへんでしたね。もう平常に戻られましたか?
佐々木  漁船が沈没したり、漁網が破れたり、漁協の施設が浸水したり、大きな被害をうけましたが、おかげさまで生産活動も再開できて、ホッとしています。
 船や漁網の修理・買い換え以外に、復旧作業で休業しているあいだの運転資金も必要でしたが、漁連独自の対応とともに、行政にも配慮していただきました。たいへんありがたいと思っています。
小林  阪神淡路大震災のあと、京都府生協連は行政とのあいだで、災害時の応急物資供給協定を結びました。昨年10月の台風被害では、この協定がはじめて発動されました。行政やボランティアセンターの要請にもとづいて、土砂を掘り出すスコップ、マスク、暖をとっていただくためのカイロなど、さまざまな物資を提供したのですが、同時に救援募金活動にも取り組み、京都府と社会福祉協議会にお渡ししました。
 みなさんのご苦労を目にして、突然やって来る災害には不断の心構えと対策が必要だと痛感しました。
佐々木  みなさんのご支援にはほんとうに感謝しています。ありがとうございました。
 今回の台風は漁業者の予想をはるかにこえるものでありました。ご存じのとおり、冬の日本海のシケは強い風が何日間もつづき、漁業者は十分な対応をとるのですが、台風は短時間で通り過ぎるため、油断してしまった部分があったのかもしれません。私も不断の備えの大切さを肝に銘じました。 

消費者の視点を教えてくれた鮮魚産直「かもめBOX」
小林  ところで、京都生協と京都府漁連の鮮魚産直「かもめBOX」の取り組みがはじまって20年たちました。
佐々木  もう、そんなになりますか。早いものですね。
小林  ほんとうに!
 この取り組みのなかでは、新鮮な魚を届けていただくだけでなく、包丁教室をとおして魚のさばき方も教えていただきました。それまで、京都市内では魚を一尾の状態からさばいて食べる習慣はあまりなくて、かなりベテランの主婦でも魚をおろせる人は少なかったんです。私もそのひとりでしたが、包丁教室で教わったおかげで、お刺身がつくれるようになりました(笑)。 
佐々木  包丁教室は漁協婦人部と生協組合員の交流活動の一環として取り組まれましたが、われわれ漁業にたずさわる者にとっても、「魚をさばく」ということを知っていただくのは非常にうれしいことでした。もちろん魚食の普及につながるのもうれしいことですが。
 私たちが「かもめBOX」に取り組んでもっともありがたかったのは、消費者の目線で考える大切さを教えていただいたことです。それまでは「どんな魚でも、とにかく市場に出せばなんとかなる」という姿勢で、魚の消費量が多かった時代の発想から抜け出せなかったのですが、生協との交流のなかで「食べ物が豊富ないまは、消費者の視点で考えないと魚を食べてもらえないのだ」ということを学ばせていただきました。
小林  でも、生協組合員は「同じ魚ばかりつづくのはイヤ」とか「小さな魚ばかり入るのはイヤ」とか、わがままばかりいって、さぞ「消費者はわかっていないなあ」と思われたでしょうね(笑)。 
佐々木  そういう思いはお互いにあったでしょうが、交流を積み重ねることで理解してきたことが多いのではないでしょうか。
小林  そうですね。私たち組合員は、新鮮なお魚を食べたり魚をさばく技術を身につけられただけではなく、「ああ魚にも旬があるんだ! これがこの季節の魚なんだ!」と実感できるようになりました。これも「かもめBOX」のおかげだろうと思います。 
佐々木  季節ごとの、京都の海から揚がるおいしい魚を召し上がっていただけることは、生産者にとっていちばんありがたいですね。
小林  最近は健康ブームで、魚食のよさが見直され、生協でもイキのいい魚が出せる店舗は組合員から高い支持をうけています。
 大学生協でも、「ぜひ生の魚のおいしさを若い学生たちに知ってほしい」と、丸のままの魚を調理して、食堂のメニューとして出しているところがあるんですよ。
佐々木  それはうれしいですね。これからも消費者のみなさんに新鮮でおいしい魚をお届けできるよう、気張っていきます。

魚の「ブランド化」は、おいしさ・品質の保証
小林  佐々木さんは現役時代、丹後半島の間人でカニ漁をなさっていたそうですね。
佐々木  はい、二七歳から船に乗っていました。
小林  いまや「間人のカニ」は、テレビ番組で紹介されたり、インターネット上の市場に売り出されたりして、すっかり有名ブランドになりましたね。
佐々木  京都の沖合は、海底の土壌やエサなど、カニの生息条件がそろっているのだと思いますが、全国でも有数のカニの好漁場だといわれています。間人はこの漁場まで近いという好条件に恵まれていて、高鮮度な状態で消費者のみなさんにお届けすることができます。もちろん、鮮度を保つために、いろいろな努力をおこない、また、衛生管理にもつとめています。このように漁業者が自信をもって消費者のみなさんにお届けするズワイガニには、緑色のタグが取り付けてあり、漁獲した船名も記録されています。このことによって、漁業者にも責任がともなうようになりました。私は、そのことが結果的にとてもよかったと思っています。これまでは「市場に出せば終わり」で、消費者の手にわたる段階までの意識がなかった。でも、これからはそこまできちんと責任をもって、たしかなものをお届けしないといけない。その意味ではズワイガニだけでなく他の魚種でも京都産ブランドをめざして、水産物のレベルアップをしないといけないと思っています。

海の自然環境を守り、ゆたかできれいな海を後世に伝えたい
小林  最近「かもめBOX」のなかでイワシの姿を見かけなくなりましたが、どうしてなのでしょうか?
佐々木  漁獲量で申しますと、10年前にくらべて、イワシ類は約二割に、サバは一割以下に落ち込んでいます。イワシやサバの代わりにふえた魚があるわけでもないので、たんなる魚種交代というよりも、漁獲量そのものが減っていますね。
小林  以前は「大衆魚」だったイワシやサバも、これからは「高級魚」になって、お祭りのごちそうの定番の鯖寿司も、庶民には手が届かなくなるかもしれませんね。
佐々木  若狭のサバは、運ぶ道筋が「鯖街道」とよばれるぐらい、京都でたくさん消費されてきましたからね。
小林  それが、いまはほとんどノルウェー産なんです(笑)。でも、ノルウェー産のサバは脂っぽくて、鯖寿司には使いにくい。やっぱり鯖寿司は近海のサバでないと…。
佐々木  サバもさることながら、とりわけイワシは日本海の食物連鎖のカギを握る魚で、イワシがいてくれたから、イワシをえさにする回遊魚が近海に来ていたんです。
小林  地球温暖化の影響で、海水温も上昇しているそうですが、それが関係しているのでしょうか。
佐々木  その影響はあるでしょうね。海水温がたった一度変わるだけで、魚の回遊コースも変わりますし、とくに最近は海中でも四季の移りかわりが変化してきています。昔は、冬にたくさん雪が降って、それが海に流れ込んで海水温を下げ、海を冷やしてくれた。そうすると磯に魚が寄ってきたんです。でも最近は、冬でも雪があまり降らなくなって、海のなかの四季の循環が弱まった。そういう変化は、定置網や磯で漁をいとなむ者にとって大きな打撃になります。
 海の自然環境や水産資源については、目でみえないがゆえ未解明の部分がたくさんある。そこが漁業者にとってつらいところですね。たとえば、マイワシが激減した原因もたんなる魚種交代なのかどうかわからない。ですから、私たちはもっと海の研究がすすむことを願っています。漁業者としても禁漁期間や禁漁区を設けたり、稚魚を育てて放流したりして、「獲る漁業」から「作り育てる漁業」にしようと取り組んでいます。
小林  伊根の太鼓山に植樹する「浦島エコローの森づくり」という取り組みもなさっていますね。
佐々木  陸の環境が荒れると、海が汚れて、魚が棲めなくなるんです。とりわけ磯にくらす魚や海藻類へのダメージが大きいので、陸の環境問題は他人事ではありません。ゆたかで、きれいな海を後世に残すことはわれわれの責務ですから、できるだけの努力をしなければならないと思っています。

漁業を担うパワフルな女性たち
小林  先ほど港に行くと、箱詰め作業の真っ最中で、女性もたくさん働いておられましたし、インターネット上のショップの「間人のカニ」のページには漁協のパワフルな女性が登場しています。女性は、船には乗らなくても、漁業の担い手として大きな役割をはたしていらっしゃるんですね。
佐々木  わが家でも、船が港に帰ったあとは、選別・出荷作業などすべて女房が仕切っています(笑)。
 われわれ漁業者にとって魚は商品であって、いかに仲買人に高い単価をつけてもらうかが大事ですが、商品の並べ方ひとつにしても、女性は自分が買う立場になって考えるんですね。昔は「市場に出せば、なんとかなる」という姿勢ですんでいましたが、いまは仲買人のなかにひとりでも多くのファンをつくることが大事なので、その意味でも、女性のはたす役割が大きくなっています。 
小林  なるほど、女性が漁業をうしろからしっかりささえておられることがよくわかりました。ぜひ女性を大事になさってください。
佐々木  大事にしていますよ、なにしろ「山の神」ですから。
小林  そのお言葉をうかがって、安心しました(笑)。
 佐々木さんは「これからは消費者から選ばれる漁業をやりたい」とおっしゃいましたが、私たち消費者も、ただ買うだけではなく、漁業の現実をちゃんと学んで、環境問題もふくめてできるだけのことをして、漁業をささえていかないといけないと思っています。
佐々木  産直がはじまって20年、長いあいだのお付き合い、どうもありがとうございました。こんごも、改善すべき点がございましたら率直なご意見をおよせください。よろしくお願いします。
小林  こちらこそ! どうか、これからもおいしくて新鮮なお魚を届けてください。




写真撮影/ 有田知行


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