「京都の生協」No.67 2009年1月発行 この号の目次・表紙

誠実に生きる人びとの幸福が大切にされる社会を!
―京都の暮らしを支える中小企業

 京都府民の暮らしや京都経済に、中小企業は重要な役割をはたしています。いま、世界的にひろがる金融不安などの影響で、中小企業のおかれている経済環境はいちだんときびしさをましています。  今回は、京都府中小企業団体中央会会長の渡邉隆夫さんに、中小企業支援・地域振興のためにすすめている取り組みや「革新と伝統」をあわせもつ京都の中小企業の底力、消費者組織としての生協への期待などについて、お話をうかがいました。

(対談は西陣織会館でおこないました。西陣織会館について、「探訪」で紹介しています)


 
京都府生活協同組合連合会
会長理事 小林 智子
  京都府中小企業団体中央会
会長 渡邉 隆夫さん

京都の経済を支えている中小企業
小林  きょうは西陣でお会いできるということで、着物でまいりました。
渡邉  とてもよくお似合いです。最近は着物に親しんでくださる方がふえて、われわれも喜んでいるんですよ。
小林  若い方の着物姿もふえましたね。じつはわたし、機織りの音が一日中響いているような西陣の地域で育ったんです。ですから、京都の暮らしを支えているのは小さなお商売をなさっている方がたなんだということを実感しています。
渡邉  おっしゃるとおり、まさに京都は中小企業のまちですね。京都府内でいうと、企業の99・8%、働く人の73%を中小企業で占めているんですよ。
小林  その中小企業をサポートなさっているのが京都府中小企業団体中央会(以下、中央会)ですね。
渡邉  中央会は、中小企業の振興を図ることが目的で、会員は業種ごとの協同組合や企業組合、商店街振興組合など、さまざまな中小企業団体です。したがって個人ではなく団体ごとに加入します。多様なグループが集まることで相乗効果を高めようと、組合等の設立・運営の相談に乗ったり、任意に結成されたグループ間の連携を支援したり、税理士・中小企業診断士などの専門家を派遣して経営相談にあたるなど、いろいろな活動を展開しています。中小企業等協同組合法にもとづいて設立され、今年で54年目を迎えたんですよ。現在、約8万社が所属しています。
小林  8万社とは、すごいネットワークですね。このたび、わたしども京都府生活協同組合連合会(以下、府生協連)も特別会員として加入させていただくことになりました。
  また府生協連の会員である京都生協が、中央会の支援のもとに活動されている(社)京都府食品産業協会(以下、食産協)に賛助会員として加入させていただくことになりました。本当にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
渡邉 生協さんにはぜひ入っていただきたいと思っていました。こちらこそよろしくお願いいたします。


「虚業」よりも「実業」の振興を!
小林  このところ原油価格がはね上がり、穀物の価格も高騰して世界的に食料不足が心配されていますが、それにくわえ、アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発して、世界恐慌の再来まで語られるようになりました。わたしたち消費者も大きな不安を感じているところですが、お商売をなさっている方もたいへんなのではないかと思います。
渡邉  いや、もう本当におかしなことになっていますね。経済というと、金もうけのことだと思われがちですが、もともとは「経国済民」「経世済民」の略語で、国民の生活を安定させ、将来に希望のもてる社会を実現することだと思うんですよ。
  ところが、英語の「economy」を辞書で調べてみると、訳の最初に出てくるのは「節約」とか「倹約」という言葉ですし、飛行機の座席の「エコノミークラス」もそこからきた言葉ですよね。
  つまり、「経済」という言葉が、いつのまにか「経世済民」ではなく「節約」「倹約」「金もうけ」であると考えられるようになったんですね。そして、マネーゲームとやらで、実際の生産活動や売買やサービスの提供などの経済活動から乖離(かいり)した、利潤のみを追求する投機的行動が社会を支配するようになってしまいました。
  生産や売買やサービスなど実体のある経済活動を「実業」とするなら、そうした「実業」を食い荒らし、利潤追求のみに突っ走る投機資本のありようは「虚業」だといえます。蚕が桑の葉を食いつくすようすを「蚕食」といいますが、現在の経済危機は「虚業」が「実業」を蚕食(さんしょく )したことにその一因があるように思いますね。
 しかも、政治というのは、かつて「民のかまどに煙は立っているか」と案じた為政者がいたように、本来、額に汗して一生懸命に生きる人びとが安心して暮らせるようにすることだったはずですが、実際はマネーゲームをあおり、応援しているのではないかとさえ思える政策を打ち出してきました。
小林  いまや「済民」という観点は全然感じられなくて、わたしたち国民の暮らしは置き去りですものね。
渡邉  まったくです。額に汗して誠実に生きる人びとをサポートするのが本来あるべき税金の使い方ですから、「虚業」が「実業」を蚕食しているのであれば、「虚業」のもうけから税金を取って、それを「実業」のインフラ整備に回すべきです。
  そうすれば「実業」が栄えて、まじめに働く人びとにお金が回るようになります。
小林  「虚業」から税金を取るというのは、一見ユニークな発想に思えますが、そういったことを真剣に考えなければならないところにきていると思います。
渡邉  そうです。そして、この「虚業」にたいする税金、いうなれば「虚業税」を財源にして、中小・小規模零細企業や地場産業、農林漁業など「実業」に対する抜本的な振興策をすすめたら、それが雇用対策にもなり、人びとの気持ちも安定にむかうのではないか。インフラ整備というと、とかく「ろくに使われもしない道路やハコものづくり」が連想されがちですが、人びとの暮らしをよりよくするために必要な基盤整備もあるわけで、企業の場合はたとえば研究開発などですね。そういうところにこそ税金を使うべきです。

「京都ブランド」の源泉―ゆたかな創造力・果敢にチャレンジする気風
小林  いま食品を扱うお店に入ると「京ブランド認定食品」のマークがついた商品が並んでいます。京都の食品の製法や品質は、いままでは個々の企業やお店ごとに永年の経験と勘の積み重ねで守られてきましたが、京都以外で生産され、どうかと思われるような品質にもかかわらず「京風」とか、「京の」とかいうネーミングをつけた商品が横行するようになったことから、「京ブランド」を名乗るにふさわしい品質の要件を定め、それをクリアした食品だけを認定して、京都の食品産業全体のレベルや発信力の底上げを図ろうということになりました。これは食産協の「京ブランド食品認定・品質保証事業」という取り組みの成果で、わたしも審査委員として参加させていただいています。
  この取り組みのなかで、お漬物屋さんやパン屋さん、お豆腐屋さんや京菓子屋さんなど本当にたくさんの食品事業者の方がたとお話しする機会にめぐまれたのですが、みなさん、とても誇りをもってらして、研究熱心で、少しでもいいものをつくろうと努力をおしまれないんですね。そこに京都の中小企業の底力というか、強みのようなものを感じています。
渡邉  京都の中小企業は、創意工夫をこらして新しい商品をつくったり、新しい商売の方法を考えたりする気風が強いし、そういう企業がもっとも敬意の対象になる土地柄です。そういう特色をいちばんつよくあらわしているのは、この西陣という地域だと思いますね。
  この地域に「西陣」という名前がついて以来540年もの歴史が流れましたが、意外に何代も続いた老舗は少ない。それは、たとえば相撲界で、横綱の息子が必ずしも横綱になれるとは限らないのと同じで、創造力を大事にして、つねに変化してきたからなんです。一般に、会社は、企業規模が大きいとか財務内容が良好だとか歴史が古いということが評価されますが、西陣では創造的であることがもっとも尊敬され、人まねをする企業は軽蔑されます。
  これは京都というまちの気風にも通じることではないかという気がします。革新の積み重ねが、やがて伝統になるのですから。
小林  たしかに「伝統産業」のイメージのつよい京都ですが、名のあるハイテク企業も京都に本社をかまえておられるところがありますものね。とはいえ、小規模企業ならではのご苦労もおありなのではありませんか。
渡邉  ものづくりは量産効果があるので、需要の低迷によって小規模生産をしいられている状況はつらいものがありますね。お米を炊くにしても、一合炊くより一升炊いたほうがずっとおいしいけれど、炊く手間は一合も一升も同じ。これはものづくりの基本的な原則で、売買やサービス業の分野にも共通していえることですから、まず一定の需要を確保することが必要だと思います。
小林  そうした状況を打破するために中央会としてとくに力を入れておられる事業は?
渡邉  やはり中央会のメリットは集団の力で取り組めるという点ですから、事業協同組合等の組織化とともに、LLP(有限責任事業組合)など、あらたな組織づくりを支援したり、「農商工連携」や「創業支援」のサポート、府北部地域の振興、京都という地域資源の活用とブランド対策、会員事業者の相互利用が可能なネットワークづくりなどに取り組んで、中小企業を支援する総合サービス機関としての役割をはたしたいと考えています。

健康な暮らしとまちづくり、生協の役割
小林  中央会は府内全域を対象に活動されていますが、わたしたち府生協連も府内のさまざまな生協が集まっている団体なんです。食品供給を中心にした地域生協だけでなく、職域生協や大学生協、また医療生協や共済生協といった生協も参加しています。
  地域では、京都生協が府内全域で供給活動をおこなっています。近年は、班による共同購入だけでなく、個配という仕組みをつくって、山深いひとり暮らしのお年寄りのお宅にも商品を届けています。生協はお年寄りの安否確認の役割もはたすようになりました。採算という点では楽ではありませんが、協同の力で地域の暮らしを支えていけたらと思っています。
渡邉  公的な領域の事業こそ、そういう姿勢が大事ですね。「赤字の事業は廃止すべし」などという主張は、個人の営利事業にはいえても、郵便局や公共交通機関や医療や福祉や教育までふくめてはいけない。それを強引にあてはめようとする人がいるのは困ったものです。
  ところで、わたしも京都生協の組合員なんですよ。いつも自宅の近くの店舗でお世話になっています。食は、衣食住のひとつですから、それを生協が担って、社会的な役割をはたされるということはとても大事だと思います。その役割をはたしつづけるためには、もちろん経営を守ることも大切ですが、金もうけに走ることなく、健康によい、おいしい食べ物を提供しつづけることが重要だと思います。
  それともうひとつ、まちづくりの取り組みもお願いしたいと思います。たとえば現在、今出川通りにLRT(次世代型路面電車)を走らせようという運動が、沿線の大学や神社や地域住民によって取り組まれています。わたしもこの運動に参加していまして、「京都のまちから渋滞や排気ガスを少しでも減らし、住民や観光客が快適に移動できるようにする」とか「路面電車は軌道を敷くだけなので建設コストは地下鉄より格段に安く、二酸化炭素の削減にもなる」というようなことを考えています。
  この運動にかぎらず、美しい京都のまちをつくろうという取り組みはほかにもあると思いますので、ぜひ生協さんもそうした運動に加わってもらえたらと思います。

「賢い国民」になるために力を合わせましょう
小林  お話をうかがっていて、「虚業」ではなく「実業」が、きちんと評価され、ちゃんと成り立つ社会にしないといけないなと、つくづく思いました。
渡邉  生協は「賢い消費者になろう」とおっしゃっていますが、まさにそのとおりで、われわれは「賢い国民」にならないとだめですね。民主政治は、衆愚政治につながる危険とも隣り合わせですから。
小林  民主主義を実現するということは、一人ひとりが次世代にたいして、きちんと責任を負っていくことですものね。
渡邉  同感です。グローバル化が声高にいわれるけれども、額に汗して誠実に生きる人びとの幸福こそもっとも大切にされなければいけないし、われわれ中央会も人びとの幸福に資する取り組みをしなければと考えています。そのために生協のみなさんとも力を合わせていきたいと思いますので、ぜひ今後ともよろしくお願いします。
小林  こちらこそよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。




◆渡邉隆夫さんのプロフィール◆

1939年京都府生まれ。同志社大学経済学部卒業。
1962年東京の呉服問屋「菱一」に入社。
1964年「渡文」に入社。
1982年取締役・常務をへて代表取締役社長に就任、現在に至る。
1996年西陣織工業組合理事、副理事長をへて理事長に就任、現在に至る。
2002年京都中小企業団体中央会副会長をへて会長に就任、現在に至る。
2004年京都商工会議所副会長に就任、現在に至る。 その他にも要職を多数歴任。
1998年京都市長表彰(永年役員功労)

写真撮影・ 有田知行

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