「京都の生協」No.74 2011年4月発行 今号の目次

京都医療生活協同組合 山田亮三理事長を訪ねて
全国でただひとつの眼科専門の医療生協として

 中野眼科で知られる眼科診療所を京都市内4ヵ所で開設。一般眼科診療のほかレーザーを活用した手術・治療など、高度な診療もおこなっています。日帰りでできる白内障手術も評判です。
 コンタクトレンズの研究・処方では50年以上の実績があり、毎年秋には、無料眼科健診を実施しています。山田亮三理事長と田中弘専務理事をお訪ねし、お話をうかがいました。



京都府生協連
小林智子会長理事

京都医療生協
山田亮三理事長

小林 京都医療生協さんは、たいへんユニークな生協で、しかも、たいへん長い歴史をおもちですよね。

山田 ええ、眼科専門の医療生協というのは全国でただひとつです。そして、設立されたのは1950年ですから、60年以上の歴史になります。

小林 設立時はどんな社会状況だったのでしょうか。

山田 まだ戦後の動乱の余燼(よじん)にあり、外地からの引揚げ者や戦争未亡人も多く、こうした方がたは当時の健康保険制度に加入することがむずかしい時代でした。「自由診療」となってしまうので、お金がないと医者にかかれない。そのようななかで国民皆保険をめざす運動が大きくひろがっていきました。
 当時、同志社大学出身で戦前の消費組合の指導的活動家であった秋田清二郎さんが協同組合の重要性を説いておられ、中野信夫先生が「医療の社会化」ということを主張されていました。これらが結合して「医療生協をつくったら」ということになりました。1950年に下御霊神社で510人の加入賛成のもとに設立総会が開かれました。中野先生は理事に就任しました。


  きびしい経営状況のなかで

小林 山田先生が理事長に就任されたのは2004年とおうかがいしていますが、いま医療をめぐる状況は、診療報酬がカットされるなど、経営を成り立たせるのがたいへんと思いますが。

山田 うちはコンタクトレンズ専門クリニックでもあります。その検査料が2006年に大幅に引き下げられ、経営は「激震」に襲われました。しかし、「コンタクトレンズ処方管理は医療」という立場を貫いたことが患者さんの圧倒的な信頼を獲得し、また役職員の協力のもとに経営強化を期しています。


  最新の技術と信頼される職員

山田 75歳以上の方の視力障害の約2割をしめ、最近増加傾向にある黄斑変性にたいする眼球内注射という先端技術診療も定着してきています。

小林 そのような歴史のなかでつちかわれてきた京都医療生協さんへの信頼というのは、ほんとうに大きなものがありますね。

山田 患者さんの立場でよい医療を提供すること、職員を大事にすることが、当医療生協の伝統です。それが患者さんの信頼をつちかってきました。


  組合員をふやす取組み

京都医療生協
田中弘専務理事

小林 2007年に生協法が改正されて、組合員でない方への診療所利用にたいする考え方が変更されましたが、どのように対応されておられますか。

山田 これまで行政の認可をうけてきたことからの大転換をはからなければならなくなりました。

田中 これまでは、員外利用の許可をうければ、組合員でない方の診療に制限はありませんでしたが、生協法の改正により、員外利用に全事業高の50%までという上限がもうけられ、対応をせまられています。

山田 組合員の利用の基準については法的要求事項で、実行する以外にはありません。基準に達するよう、全力をあげて取り組んでいるところです。

小林 役員・職員のみなさんが一体になって組合加入の推進に取り組んでおられるとうかがいましたが……。

山田 おかげさまで大きな成果をあげています。この1年間で800人の方にあらたに組合員になっていただきました。
 この取組みをおこなうなかで、医療生協の一員であるという点での意識改革が職員のところでずいぶんとすすんできたように思っています。


  全国連合組織がスタート

小林 このほど日本医療福祉生活協同組合連合会(医療福祉生協連)が設立されましたが、これからどのような活動がすすめられるのでしょうか。

山田 これまでは日本生協連医療部会として活動してきましたが、基本的に大きく変わるところはありません。
 ただ自由裁量的な部分がふえてくることはまちがいありません。たとえば、厚生労働省との折衝は医療福祉生協連が直接担当することになりますし、医療器具や薬の共同購入などもできるようになります。

小林 この間、急浮上してきたTPP(環太平洋連携協定)問題について、「健康の視点」からの見解を出されていますね。

田中 会長談話という形で参加中止を要望しています。医療制度がTPP問題にかんする論点のひとつにあがっています。混合診察に道を開く方向への大きな転機となることが懸念されており、国民皆保険制度をくずすことになりかねません。


  必要とされる人に生協の事業が利用されているか

山田 最近、「食の砂漠」(フード・デザート)とか、「買い物弱者」という言葉を聞きますが、生協は社会的にほんとうに必要とされる人のところに入りこめているのだろうか、そんなことを考えるときがあります。

小林 お母さんが地域生協の組合員、お父さんが府庁生協の組合員、息子さんが大学生協に入っていて、おばあさんが医療生協でお世話になっていて、そして家族全員が生協の共済を利用しているというような状況が生まれています。
 家族という単位でも、個人のライフサイクルという点でも、生協がいろいろなお役立ちをして、ずいぶんと広がりが出ているように思います。

山田 眼科は診療のためには装置が必要になる分野なので、患者さんには来院していただいています。しかし、小さなコンピュータ医療機器がかなり開発されてきましたので、将来は眼科の在宅医療も可能になってくるのではないかと思われます。


  消費者運動と医療

山田 医療生協が提起した「患者の権利章典」は、多くの医療分野につよい影響をあたえてきました。患者さんにきちんと情報を提供し納得いただくまで説明をしながら、医療計画を患者自身が選択・決定していくという「インフォームド・コンセント」の取組みがかなりすすんできました。これは、患者の権利・消費者の権利というものが広く認められ、前進してきたということです。

小林 生協は、食生活の安全・安心や健康づくりについて、消費者じしんが学ぶ機会をつくる取組みを大切にしてきました。

山田 患者さんと医療に従事する者との情報格差は大きなものがあります。「知る権利」のためにも、「学習する権利」を大切にしていきたいものです。
 京都医療生協では「健康大学」を開催して、患者さんに目の健康についての情報を中心に、医療についての体系だった考え方や日常のくらしに役立つ保健知識などをお伝えする活動をおこなっています。


  会員生協間の交流・連携を

小林 京都府内の生協がもっと交流・連携をふかめることによって、互いに学 びあえたらいいですね。

山田 「ヒト」を理解し、生涯を健康にすごせるように手助けすることも、私たちの仕事です。また、患者さんと医療担当者とがお互いに尊重しあう、「診療の和」をひろげていきたいと念願します。

小林 きょうは、ご多忙のところ、ありがとうございました。


京都医療生活協同組合
代表者 理事長:山田 亮三
専務理事:田中 弘
所在地 京都市中京区聚楽廻東町2番地
視力センタービル地階
TEL.075-822-2286
事業高 12億0,121万円
組合員数 1万6,374人
設立年月日 1950年4月25日
ホームページ http://www.kyoto-iryoseikyo.com