「京都の生協」No.75 2011年8月発行 | ![]() |
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「支えたい」気持ちを「支援」のかたちにして被災地へ ──東日本大震災からの復興を持続的に支えるために── |
いま日本中が、東日本大震災からの復興という課題に向き合っています。京都でも、震災から2日後の3月13日(日)、NPO・ボランティア団体・社会福祉協議会や行政などの協働のもと、京都災害ボランティア支援センターが設立されました。復興への長い道のりのなかで、必要とされる支援のあり方も変化していきます。支援センターは、そうした変化も視野に入れて、被災地におだやかなくらしが戻る日まで息長く支えようとしています。
![]() 京都府災害ボランティアセンター代表 宮本 隆司さん |
![]() 京都府生活協同組合連合会 会長理事 小林 智子 |
京都が一体となって、迅速、かつ効果的な支援を |
小林 京都災害ボランティア支援センターは、たくさんの人が行き交うJR京都駅前の、とても目立つ場所にあって、災害ボランティアへの関心を喚起する効果も大きいと思います。どんな経緯で開設されたのですか。
宮本 もともと京都府域を活動エリアとする京都府災害ボランティアセンターと、京都市域を活動エリアとする京都市災害ボランティアセンターがあって、両センターは連携しながら活動してきました。しかし、今回の地震と津波に襲われた地域の惨状は、これまで私たちが想定し、訓練してきたレベルをはるかに超え、支援活動もかなり長期戦になることが予測されましたので、府と市が個々に対応するよりも、オール京都で一体となって活動したほうが、より迅速、かつ効果的に支援できるのではないかと考えたわけです。
たまたま震災の翌々日は、京都府南部地域に大規模な地震が発生したという想定で広域災害図上訓練を予定していまして、京都府災害ボランティアセンターの主要な構成団体と京都市災害ボランティアセンターが参加される予定になっていましたので、急遽、両センターによる緊急合同会議に切り換えまして、震災への対応を協議しました。その結果、京都災害ボランティア支援センターを設立し、ボランティア活動の窓口を一本化することを確認したというのが出発点です。
小林 それにしても、震災から間もないタイミングで、こんなにぎやかな場所に事務所を設置するのは、さぞたいへんだったと思います。
宮本 ほんとうに多くのみなさんのご協力でこの場所に設置できましたこと、心より感謝申し上げたいと思います。
このビルはワタベ・ウエディングさんが運営・管理されていまして、山田知事の骨折りで、ワタベ・ウエディングさんが1階ホールの一角を無償で提供してくださることになりました。固定電話、ファックスやパソコンはNTT西日本さんからの寄贈ですし、机などの事務機器は株式会社ウエダ本社さんが無償で提供してくださいました。それ以外にも、労働団体の連合京都さんなど、さまざまな団体・企業からご支援をいただいています。
とくに携帯電話については、当初、私たちは個人の携帯電話を使っていまして、後日、目をむくような高額の請求があって驚いていたのですが、ソフトバンクさんが30台の携帯電話を無償で貸与してくださって、ほんとうに助かっています。
活動資金は現在のところ、公益財団法人・京都地域創造基金が創設してくださった「災害ボランティア支援基金」からの1100万円と、ボランティアバスの運行資金として京都府と京都市から各300万円の補助金と、京都府と京都市の災害ボランティアセンターから各100万円の出資の合計1900万円で活動しています。
みなさんからのご寄付は、いま申しました「災害ボランティア支援基金」をとおして受け取っていますが、お子さんからお年寄りまで多くの方がたが協力してくださって、あらためて日本はすばらしい国だと思っています。近年、「人と人のつながりが希薄になった」とか「地域社会は崩壊した」などといわれますが、今回の震災では国民が一つになれたという実感がありますね。
※ | 公益財団法人・京都地域創造基金 NPO・金融機関・行政が協働し、非営利・協同セクターを支える仕組みのひとつとして、2009年に設立。東日本大震災にあたって「災害ボランティア支援基金」を設置して、京都から被災地の支援をおこなうボランティア活動を資金の面から応援しています。 |
※ | 京都府災害ボランティアセンター 2004年京都府北部に大きな被害をもたらした台風23号時の活動と対応からの教訓をもとに、2005年に設立。被災時にNPO・ボランティア団体・社会福祉協議会・行政などが協働し、被災地支援のための円滑なボランティア活動をおこない、早期復旧に寄与することを目的としています。通常時は、ボランティアコーディネーターの養成などを実施しています。2011年3月末現在、京都府生協連はじめ27団体が加盟しています。 |
京都災害ボランティア支援センターの3つの活動 |
![]() 小林 京都災害ボランティア支援センターではどのような活動をされておられるのでしょうか? たくさんのお仕事があると思いますが。 宮本 おもに3つありまして、1つは災害ボランティア活動に関する情報の収集と発信、2つめは被災地での支援活動、3つめは京都に避難してこられた方がたへの支援です。 |
必要なところに必要な支援を ──支援をコーディネートする常設のセンター |
小林 先ほど、「現地のニーズとマッチしたものを」とおっしゃいましたが、それはほんとうに大切なことだと思います。阪神淡路大震災の経験をふまえて、「必要なところに必要な人材を送る」というコーディネート機能の重要性が認識されるようになりましたね。
宮本 そのとおりでして、ボランティアの方がたの熱い思いを有効に生かすにはコーディネート機能を有する常設の機関が必要です。
そのことは阪神淡路大震災やナホトカ号重油流出事故の救援活動の経験を蓄積するなかで、ずっと話し合ってきまして、府北部に甚大な被害をもたらした台風23号の翌年の2005年に、常設の京都府災害ボランティアセンターの設立というかたちで実現しました。
小林 京都府生協連は、阪神淡路大震災の後、京都府とのあいだで「災害時における応急対策物資供給等に関する協定書」を締結しましたが、それがはじめて本格的に発動されたのも台風23号のときでした。
宮本 あのときは、京都の生協のみなさんには、ボランティア活動に必要な資材を短期間に集めていただいたり、活動資金を提供してくださったりして、ほんとうにお世話になりました。
また、当時の京都府の地域防災計画では、災害発生時は京都府社会福祉協議会に災害ボランティアセンターを設置することになっていたのですが、京都府社会福祉協議会の事務局は対応に追いつかないような状況でした。そのようななか、京都府生協連さんが職員を応援に派遣してくださいました。ほんとうに感謝しています。
そういうご協力もあって台風23号は乗り越えたのですが、のちの検証で重要な課題が見えてきました。ひとつは、大規模な災害が起きた場合、長期、かつ大規模なボランティア活動が必要になるので、それに備えて日常的に活動できる常設の機関が必要だということ、もうひとつは、社会福祉協議会だけでなく、行政もふくめた関係団体が協働して、災害ボランティア活動を円滑に運営できるようにすることです。
そういう反省に立って、2005年5月に官民協働の常設の組織として現在の京都府災害ボランティアセンターが設立され、さらに今回は京都市災害ボランティアセンターとも一体となって、京都災害ボランティア支援センターを設立したわけです。
自分のまちをよく知ることが命を救う──防災意識と助け合い |
小林 東日本大震災では、地震の後、津波に備えてすぐに高台へ避難したかどうかが生死を分けたという例がたくさんありました。 宮本 災害が起こったとき、外部から支援が届くのは一定の時間がたってからですから、まず地元で態勢をとる必要があります。 小林 避難する途中で水路があふれて命を落とされたというケースもありましたから、日頃から自分たちの地域のことをよく知って、「避難するときは、この道を。もしその道がだめなら、このルートで」とシミュレーションしておくことは、たいへん重要だと思います。 宮本 「お隣のお年寄りを助けに行かなくては!」といった地域の支え合いはとても大切ですね。
そうした住民のみなさんの防災意識を高めたり、助け合いのシステムを機能させるには、各地域に常設の災害ボランティアセンターを設置して、日常的に活動することが大切になりますが、いまのところ、常設のセンターがあるのは宇治市と精華町と福知山市だけです。新しい動きとしては、舞鶴市と綾部市では今回、東日本大震災を支援する災害ボランティア支援センターを立ち上げ、支援活動に取り組んでいただいておりますが、私たちとしては今後、各地域に常設のセンターを設置していただき、日頃から活動できるようにしていきたいと考えています。 小林 今回の震災では、自治会長さんや民生委員さん、行政や社会福祉協議会の職員といった地域の中核的な方がた自身が津波で亡くなる、ということがありましたね。 宮本 それがニーズの吸い上げをより困難にしているわけです。そうした今回の教訓をふまえて、より実効性のある組織になるよう、再点検、再構築していかなければならないと考えています。 |
遠く離れて暮らしていても、支援はできる |
小林 震災以後、支援のかたちも少しずつ変わってきまして、たとえば京都生協では、職員たちが産直提携先の方がたといっしょに、宮城県で漁港周辺のガレキや土砂を土のうにつめる作業をしたり、被災者のみなさんへの炊き出しをするボランティアツアーに取り組んでいます。 宮本 復興のプロセスでは、そうした多様な支援が必要になってくると思います。私たちも、今はガレキの撤去が中心ですが、これからのニーズは仮設住宅への引っ越しのお手伝い、孤立化を防ぐための見守り、心のケア、買い物支援や医療機関への送迎等々、日常生活を取り戻すためのさまざまな支援へと移行していくと思います。 小林 なかなか現地に行くことはできない、という人でもできる支援はありますか。 宮本 いま私たちがいちばん心配しているのは風評被害です。福島県産品だけでなく、その周辺地域でとれた農産物や水産物も売れないという状況がつづいていますが、地元の産業が立ち行かなくなれば、復興もできませんので、消費者のみなさんには、冷静になって、被災県の産品を積極的に買っていただきますよう、切に願っています。 小林 被災県の産品を利用することは、京都にいながら被災地を支えることになって、ひとつのボランティア活動といえますね。 宮本 おっしゃったように、いまはいろいろな情報が錯綜して、情報にたいする信頼性が失われています。そこがはっきりすれば、「これは大丈夫」とか「これは危険」ということがわかって、冷静に対応していただけると思います。 小林 被災地から遠く離れていても、「ひとごとではない。近い将来、自分の身に起こることかもしれない」という立場で、支援のあり方を考えたり、支援活動に参加していきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。 |
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