「京都の生協」No.78 2012年8月発行 今号の目次

「学び、考え、つながりながら生きていく」くらしにむけて
──地域社会における生協の役割──

 ことし6月19日(火)に開催された第59回通常総会をもって、小林智子さんが会長理事を退任し、あらたに上掛利博さんが会長理事に就任しました。この間、食品安全基本法(2003年)、消費者基本法(2004年)、食育基本法(2006年)、生協法改正(2007年)、消費者庁発足(2009年)など、消費者をめぐる法制度・施策は大きく変化しました。
  京都府生活協同組合連合会のこの10年をふりかえるとともに、こんごの生協の課題・はたすべき役割について、前会長理事の小林智子さんと新会長理事の上掛利博さんに語っていただきました。


京都府生活協同組合連合会 前会長理事
小林 智子(こばやし ともこ)

京都府生活協同組合連合会 新会長理事
上掛 利博(かみかけ としひろ)

  消費者政策の歴史的な変化──「保護の対象」から「権利の主体」へ

上掛 小林さん、長い間ごくろうさまでした。会長理事として8年、その前に副会長理事を2年つとめておられますので、あわせて10年間、当会で活動されてきたわけですが、いまふりかえられて、どのような思いをおもちでしょうか?

小林 副会長理事をさせていただくことになった2002年当時、私は、当会の会員生協のひとつである京都生協の理事長をしていました。2004年からは、当会会長理事と京都生協理事長との兼務というかたちになりました。ふりかえってみますと、10年前というのは、「食の安全」 や消費者政策の分野で、国の考え方が大きく転換しはじめた時期でした。私たち消費者にとっては、それまでの願いが一つずつ実現すると同時に、消費者としての役割も明確になってきた10年だったと思います。

上掛 その「願い」や「役割」というのは、具体的には?

小林 2004年に消費者保護基本法が消費者基本法に改正されました。消費者基本法には「消費者の権利」が明記され、消費者はそれまでの「保護の対象」から「権利の主体」と位置づけられました。
 「消費者の権利」は、具体的には、消費生活における基本的な需要が満たされる権利、健全な生活環境が確保される権利、安全が確保される権利、選択の機会が確保される権利、必要な情報が提供される権利、教育の機会が確保される権利、意見が反映される権利、被害が救済される権利です。
 また同時に、消費者の役割も明記されました。消費者みずから積極的に必要な情報を集めて、自主的・合理的に行動すること、環境保全につとめること、知的財産権等の保護に配慮することなどです。
 要するに、みずからの権利を正しく理解し、しっかり行使して、自立した消費者、賢い消費者になりましょうということです。この法の改正をうけて、各自治体でも消費生活にかんする条例の改定作業がすすみ、当会も京都府消費生活安全条例や京都市消費生活条例の改定に参加させていただきました。そのようななか、国会や消費者行政担当大臣へ要請に行き、2009年には消費者行政を一元的に推進する消費者庁が発足しました。

上掛 消費者にかんする政策について、国のレベルでも地方自治体のレベルでも、大きな変化があったわけですね。

小林 そうです。悪徳商法をはじめ消費者の被害はひきつづき大きな社会問題ですが、2006年の消費者契約法改正によって、消費者権利に反する契約や勧誘をおこなわれている場合に、適格消費者団体が、それを差し止めることができる「消費者団体訴訟制度」が実現しました。
 当会も、消費者支援機構関西の設立に参加し、また京都消費者契約ネットワークが適格団体としての活動を推進できるよう、連携をつよめ、消費者被害の予防と拡大防止に取り組んできました。被害額が少額なため、泣き寝入りするケースも少なくなく、現在、その被害を回復するためのあたらしい制度である「集団的消費者被害回復にかかわる訴訟制度」の実現をめざして、国はじめ各方面に働きかけているところです。


  食品安全行政の大きな転換──「食の安心・安全」を支える「信頼」づくり

上掛 食の安心・安全にかかわる問題が毎年のように起きたなかで、2003年に「食品安全基本法」ができ、京都府でも「食の安心・安全推進条例」が2005年に府議会で採択されました。その間、小林さんは京都生協の理事長と兼務され、とてもたいへんだったと思いますが……。

小林 地域購買生協としては、組合員に生活に必要な、よりよい商品を提供するという役割をもち、そのために生産者・食品事業者の方がたと日常的な提携関係を結んでいます。京都生協理事長と当会会長理事との兼務はたいへんでしたが、京都府食の安心・安全推進条例づくりに参加するときに、消費者の立場だけでなく、生産者・食品事業者の状況も一定、理解できるということがとても役立ったと思っています。

上掛 京都府の条例づくりにおいて、とくに留意されたのは、どのような点ですか。

小林 ひとくちに「安心・安全」といいますが、「安心」ということの意味するものと「安全」ということの意味するものは異なっていて、「安全」が実現されていくプロセスもふくめて信頼関係ができて、はじめて「安心」が得られるんですね。ですから、「安心」の中身をしっかり確保できるような条例にしたいということを、検討の場で申し上げました。
 こうした条例づくりの準備段階から参加させていただいたことは、たいへん貴重な経験だったと思います。生産者の側から京都府農業協同組合中央会、食品事業者の側から㈳京都府食品産業協会のみなさんも参加されていて、2005年に条例ができたのちは、こうした方がたといっしょに「きょうと信頼食品登録制度」をつくる取組みなどにも参加させていただきました。この制度は、信頼できる食品、つまり生産・製造情報がきちんと開示された食品を府の制度として登録することで、「食の安心」を実現しようというものです。

上掛 とくに「安心・信頼」という点に重点を置いて取り組まれたわけですね。それによって、その後の生協活動に何か変化が生まれましたでしょうか?

小林 「信頼づくり」というテーマは、それ以前から生協活動にとって大切なものであり、京都生協でも組合員と生産者・事業者の方がたとの関係づくりを大事にしてきました。その点は変わりません。ただ、以前は「生協の商品だから安心・安全」という、いわゆる「安全神話」のようなものがなかったわけではないと思っています。食品安全基本法で「リスクアナリシス」(※脚注)という考え方がしめされたことをうけて、生協でも最新の知見にもとづいた、科学的根拠のある「食の安全」という視点をより意識するようになりました。

※リスクアナリシス 人間の健康に悪影響をあたえる要因を科学的に分析・評価し、その情報を消費者をふくむすべての関係者間で相互に交換し、リスク低減のための政策・措置を決定・実施するという考え方。

  生協の社会的認知度──理解と共感を広げる活動

上掛 ことしは当会の創立60周年の記念式典があり、また国連が定めた国際協同組合年でもあり、5月には消費者支援功労者・内閣府特命担当大臣表彰をうけたということで、たいへん意義深い年になりましたね。

小林 京都府生協連が創立されたのは1951年で、戦後復興から高度成長へと日本社会全体が大きく転換していきました。この10年の間にも、政治・経済・社会のあらゆる面で重要な変化がありました。とくに昨年は東日本大震災を経験して、あらためて人と人とがつながり合い、助け合うことの大切さを認識しました。そして、ことしは国連が定めた国際協同組合年です。そういうなかで60周年の記念行事をおこなうことができたのは、たいへん意味のあることだと思います。

上掛 記念式典には、京都府の山田啓二知事や近畿農政局の小栗邦夫局長をはじめとした行政関係、国会議員・府市会議員、各協同組合組織や地域諸団体、報道関係など、各界のみなさんが出席してくださいました。その多彩な顔ぶれを拝見して、ここ10年ほどの間に、京都の生協全体にたいしての行政や他の協同組合組織や地域諸団体のみなさんの見方が大きく変わったのではないかと思いました。

小林 女性が消費者団体のトップにいることで、かなりシンボリックにうけとめられた面もあるかもしれませんが、各界のみなさんとの関係が急速に深まるきっかけとしては、地震、台風、それに鳥インフルエンザなど、社会災害が発生したさいに生協がどのような対応をしたのかということが大きかったと思います。
 阪神淡路大震災後に、全国の生協と行政の間で、応急対策物資供給にかんする協定を結ぶ取組みがはじまって、当会も京都府との間で協定を締結したのですが、それが初めて発動されたのは2004年の台風23号災害のときでした。迅速できめ細やかな物資の提供や、京都府災害ボランティアセンターへの職員の派遣などをとおして、当会も地域社会の一員としての役割をはたすことができたと思っています。
 それ以降は、審議会等委員への派出要請をいただくこともずいぶんと増えましたね。


  協同組合・諸団体との連携・交流

上掛 地域の他の協同組合組織とのつながりという点では、この10年間いかがでしたか?

小林 京都府農業協同組合中央会、京都府漁業協同組合連合会、京都府森林組合連合会と当会で、京都府協同組合連絡協議会という組織をつくっており、2001年からは、この協議会で「京都府協同組合職員体験・交流学校」を毎年開いています。体験型の職員研修を通じて、各協同組合間の交流と連携を深めようという取組みです。
 また、食育基本法が2005年に制定されて、2007年には「きょうと食育ネットワーク」が設立されました。これには当会も設立当初から参加して、他の協同組合組織や㈳京都府食品産業協会のみなさんといっしょに、子どもたちや大学生を対象にした体験型の食育活動に取り組んできています。
 ことしの国際協同組合年記念の取組みについては、京都府協同組合連絡協議会で6つの大きな柱を立てました。「生産と消費をむすぶ10万人協同組合間大交流活動」のよびかけ・推進、国際協同組合デー第23回京都集会の開催、第12回京都府協同組合体験・交流学校の開催、大学生協寄付講座「協同組合論」の開催・協力、各組織の広報媒体を活用した府内協同組合紹介、行政機関・マスコミへの周知・理解促進です。

上掛 大学生協の寄付講座では、小林さんも講師をしてくださるのですね。

小林 はい、お恥ずかしいことながら(笑)。これまで私が消費者のひとりとして考えたこと、体験したこともふくめて、生協についていろいろお話しできたらと思っています。


  「学び、考える主体」の形成──協同組合の役割

上掛 さきほど「権利の主体としての消費者」というお話を聴いたとき、先日観た映画『アンネの追憶』で、ナチスの強制収容所で命を絶たれたアンネ・フランクが日記に記した「わたしは思うのですが、戦争の責任は、偉い人たちや政治家、資本家にだけあるのではありません。そうですとも、責任は名もない一般の人たちにもあるのです。そうでなかったら、世界中の人びとはとうに立ち上がって革命を起こしていたでしょうから」という言葉を思い出しました。
 私は大学で社会福祉を教えていますが、あのような時代に戻らないためには、「名もない一般の人たち」が人間らしいくらしができる社会をめざして、一人ひとりがいかに考え、どのように行動することができるかにかかっていると思っています。ですから、学生たちにたいして「学ぶ主体=考える主体」になってほしいと話しています。

小林 それは生協も同じですね。ですから、最近は「みずから参加しよう。そのためには学ぶことが大切だ」ということで、組合員が主体的に学ぶ場を提供するという生協の役割を意識しています。
 学ぶスタイルも、講義を聴くだけでなく、隣の人と話し合って、一致点や相違点を発見して、相違点は認め合うようにする。そういう経験を積み重ねることはとても大切ですし、とくに相違点を認めるには一定のトレーニングが必要ですので、生協ではワークショップ形式の学習会をよくおこなっています。

上掛 1995年にICAマンチェスター大会で採択された「協同組合原則」の第5原則は「教育、研修および広報」ですが、そこでは「協同組合は、組合員、選出された代表、マネジャー、職員がその発展に効果的に貢献できるように、教育訓練を実施する。協同組合は、一般の人びと、特に若い人びとやオピニオンリーダーに、協同組合運動の特質と利点について知らせる」とされ、若い人びとへのアピール、教育と研修のはたす役割が決定的に重要であることがうたわれています。 当会でも、理事会学習会や監事・役職員研修会を通じて、その時々の課題について学んでいますね。

小林 この10年間をふりかえってみると、会員生協の組合員・役職員を対象に関心のつよいテーマについて、第一級の講師を招いての研修会・学習会を年3回定期的に開催してきたことは大きな意味があると思っています。
 連合会の理事会は、各会員生協の理事会とは少し違い、お互いによく知り合い、府内の生協どうしのつながりを深めることが大切ですから、そうした学習会・研修会を重ねてきました。あわせて、それをさらに深める場として、「組織と事業のイノベーション(刷新)による協同組合のあらたな価値の発見・創造」を中心コンセプトにした「京都の生協活動を豊かに発展させる協議会」も2011年度からはじめています。


  「消費生活を支える生協」から「生活そのものを支える生協」へ

小林 上掛先生は、これまでも生協とずいぶんかかわってきてくださいました。このたび会長理事職についてくださることになって、たいへんうれしく思っています。

上掛 私は、京都生協の理事を10年間させていただきましたし、職場である京都府立大学でも大学生協の理事長等を5年間してきましたので、地域生協と大学生協の両方を経験してきた立場から、京都府生協連の活動にご協力できたらと思っています。
 また、西日本の生協が中心になって設立された「くらしと協同の研究所」でも、理事や研究委員会の代表、機関誌の編集委員などをやっています。この研究所は、理論的な研究だけでなく実践的な課題にもこたえるというのがミッションですので、その意味からも、京都府生協連の仕事をお引き受けしなくてはと考えました。
 あわせて、私は京都府立大学の教員ですので、多くの京都府民の生活の文化的・経済的な改善向上に役に立つ協同組合の連合会の代表として、少しでも役割をはたせたらと願っています。

小林 あたらしい役職につかれることになってのご抱負をお聴かせいただけたら……

上掛 現代社会は家族のあり方がずいぶん変化していて、今後とくに高齢のひとり暮らし世帯が増えることが予想されます。生活協同組合としては、「消費」だけでなく「生活」そのものを「協同」で支えることが課題になると思うので、多様な組合員や職員、ネットワークをもっている生協の連合体の組織として、そうした課題と向き合って役割をはたしていくことが大事だと思います。
 和歌山大学の元学長で西洋経済史がご専門の角山榮さんは、91歳ですが、奥様を亡くされてから12年間、ひとり暮らしをなさっています。妻を亡くした男の幸せを考えてきて、それは「人と人とのつながり」にあるというご自身の生活体験もふまえて、これからの時代「孤立しないで、一人で生きていく」ことができる人びとが増えたら社会も確実に変わっていくのではないか、とおっしゃっています(『中央公論』2012年7月号)。私は、この「孤立しないで」というのを支えるのが、多様な「生活」「協同」の組織の役割だと思うのです。
 「つながり」というものをちゃんとつくりながら、「学ぶ主体=考える主体」として自分の頭で考えて一人で生きていく=行動していく、そこに、これからの「新しい縁」の結び方のポイントがあるのではないでしょうか。協同組合は、そこでどのようなお手伝いができるかということを工夫していかなければいけないのではないか、ということを考えているわけです。
 また、若い人たちというのは、これから家庭をもって、地域で生協の活動にもかかわってほしい人たちですが、そうした若い世代が抱えている問題についても、協同組合がはたすことのできる“可能性”を考えていけたらと思います。
 生協の事業環境という点からみると、ほんとうにきびしい状況にありますが、お話ししたように家族のあり方や地域が大きく変化していく時代においては、「生協の課題は地域社会の課題でもある」という認識に立って、行政だけでなく社会福祉協議会や他の協同組合組織、諸団体の方がたともいっしょに課題を解決するプロセスを通じて、新しい事業分野を展望することもできるのではないでしょうか。そうした多様な視点から、生活協同組合の視野を広げていくことも、当会の課題ではないかと考えます。
 京都で会員のみなさんが協同組合をつくってこられた歴史に学びながら、役割をはたしていきたいと思いますので、小林さん、これからもよろしくお願いします。

小林 どうかよろしくお願いいたします。
  私もこれから地域であらたなつながりづくりにチャレンジしていきます。



写真撮影・有田 知行


プロフィール:上掛 利博(かみかけ としひろ)
(略 歴)
1954年 福岡県 北九州・八幡(やはた)の生まれ
1978年 京都府立大学 文学部 社会福祉学科 卒業
1982年 岡山大学大学院 経済学研究科 修士課程 修了
1985年 立命館大学大学院 経済学研究科 博士課程 単位取得退学
1987年 京都府立大学 女子短期大学部 講師(1990年~助教授)
1997年 京都府立大学 福祉社会学部 助教授(2003年~教授)
2008年 京都府立大学 公共政策学部 教授(現在に至る)

(専 門)
社会政策・社会福祉論(共編著)
『社会福祉講座』全5巻(かもがわ出版)、 『世界の社会福祉⑥デンマーク・ノルウェー』(労働旬報社)、『福祉社会を築く』(文理閣)、ほか

(論 文)
「障害者共同作業所づくり運動と福祉政策」(『立命館経済学』第35巻4号)、「人間の自由と福祉~セーフティネットの福祉を超えて」(『経済科学通信』No.117)、ほか

(委員等)
(財)京都市女性協会 評議員、城陽市地域福祉推進会議 会長、大学評価・学位授与機構 専門委員、くらしと協同の研究所 常任理事・研究委員長、ほか

(生協での活動歴)
1999~2009年 京都生協 理事、2006~08年 京都府立医科大学・府立大学生協 副理事長、2008~10年 京都府立医科大学・府立大学生協 理事長、2011~12年 京都府生活協同組合連合会 理事